前橋地方裁判所 平成7年(行ウ)4号 判決 2000年5月31日
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 被告が
(一) 平成四年三月四日付でなした原告の昭和六三年分所得税について所得金額を金六三九万〇二七一円とする更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分のうち、総所得金額を金四二八万二〇〇八円として計算した額を超える部分
(二) 右同日付でなした原告の平成元年分所得税について所得金額を金七八六万六六〇三円とする更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分のうち総所得金額を六一六万九〇一八円として計算した額を超える部分
(三) 右同日付でなした原告の平成二年分所得税について所得金額を金八七九万七〇一六円とする更正処分(ただし、審査請求における裁決により一部取り消された後のもの)及び過少申告加算税賦課決定処分(ただし、審査請求における裁決により一部取り消された後のもの)のうち総所得金額を金六二三万九〇八一円として計算した額を超える部分は、いずれもこれを取り消す。
二 被告が原告の平成二年一月一日から平成二年一二月三一日までの課税期間の消費税について平成四年三月四日付をもってなされた決定処分(ただし、審査請求で取り消された部分を除く)及び無申告加算税の賦課決定処分(ただし、審査請求で取り消された部分を除く)は、これを取り消す。
第二事案の概要
本件は、大工工事業を営むいわゆる白色申告者である原告が、昭和六三年から平成二年分(以下「本件各係争年分」という。)の所得税について確定申告を行い、平成二年一月一日から同年一二月三一日まで(以下「本件課税期間」という。)の消費税について確定申告を行わなかったところ、被告が、原告に対し、所得税について、原告の売上金額を基に同業者比率により推計してその事業所得金額を算出する方法により、第一の一記載の所得税更正処分等を行い、また、消費税については、原告の右課税期間における課税資産の譲渡等の対価の額を基に課税標準額を算出し、第一の二記載の消費税決定処分等を行ったため、原告が、右所得税更正処分等には推計の必要性も合理性もなく、また、推計により算出した事業所得金額は原告の実際の事業所得金額を上回っているとして、その事業所得金額の実額を主張し、また、右消費税決定処分等については、仕入れ税額控除にかかる帳簿等を保存しているから、その全部の仕入れ税額控除が認められるべきであるなどと主張して、右所得税更正処分等及び消費税決定処分等の取消を求めた事案である。
一 争いのない事実
1 原告の申告及び被告の賦課決定処分等の経緯
(一) 原告は、大工工事業を営む者であるが、本件各係争年分の所得税について、それぞれ青色申告書以外の確定申告書に左記のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
なお、原告の各確定申告書には、事業所得の金額が記載されているのみで、その算定の基礎となる収入金額及び必要経費の記載がなく、また、所得税法一二〇条四項に規定する「事業所得にかかる総収入金額及び必要経費の内訳書」(以下、「収支内訳書」という。)の添付もなかった。
記
年度 事業所得金額 納付すべき税額
(1) 昭和六三年分 二二〇万円 八一〇〇円
(2) 平成元年分 二五〇万円 九一〇〇円
(3) 平成二年分 二五〇万円 五五〇〇円
(二) 原告は、本件課税期間の消費税については確定申告書を提出しなかった。
(三) 被告は、平成四年三月四日付で、本件各係争年分の所得税について左記のとおり更正処分(以下「本件所得税更正処分」という。)及び賦課決定処分(以下「本件過少申告加算税賦課処分」という。)をした。
記
年度 事業所得金額 納付すべき金額 過少申告加算税
(1) 昭和六三年分 六三九万〇二七一円 五五万四二〇〇円 五万六〇〇〇円
(2) 平成元年分 七八六万六六〇三円 七九万一六〇〇円 九万二〇〇〇円
(3) 平成二年分 八七九万七〇一六円 一〇〇万五六〇〇円 一二万五〇〇〇円
(四) 被告は、平成四年三月四日付で、本件課税期間の消費税について、次のとおり決定処分(以下「本件消費税決定処分」という。)及び無申告加算税の賦課決定処分をした(以下、「本件無申告加算税賦課処分」という。)。
課税標準額 一億〇〇八三万五〇〇〇円
納付すべき税額 二九二万七二〇〇円
無申告加算税の額 四三万八〇〇〇円
(五) 原告は、前記(三)及び(四)の各処分について、平成四年三月二七日に異議の申立をしたところ、被告は同年六月二三日付でいずれも棄却する決定をした。
(六) 原告は、平成四年七月一八日に国税不服審判所長に対して審査請求したところ、国税不服審判所長は平成七年三月三〇日付で、昭和六三年分及び平成元年分の所得税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分に対する審査請求をいずれも棄却し、平成二年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分はいずれもその一部を別紙一のとおりに、平成二年一月一日から平成二年一二月三一日までの課税期間の消費税の決定処分はいずれもその一部を別紙二のとおりにそれぞれ取り消す裁決をした。
2 被告の調査の経緯
(一) 平成三年八月二一日、被告所部係官Aは、原告宅に、同月二九日午前一〇時ころ再度来訪する旨記載した文書を差し置いた。
(二) 平成三年八月二七日、原告の妻BからA係官に対し、原告はαに泊まり込みで出かけており、同月二九日は都合が悪い旨の電話があった。そこで、A係官は、同年九月一一日午前一〇時ころ訪問する旨Bに伝えた。
(三) 平成三年九月六日、BはA係官に電話し、原告は九月中は仕事の関係で都合が悪く、来月、都合のよい日を原告の方から連絡する旨伝えた。その際、A係官は、Bに、同年九月九日までに原告の都合のよい日を連絡して欲しい旨伝えた。
(四) 平成三年九月一〇日、A係官が原告宅に電話したところ、応対したBが、原告は調査については来月でよいと言っているとの話をした。その際、A係官は、Bに対し、同月一七日までに原告からA係官に連絡をするように伝えた。
(五) 平成三年九月一八日、A係官が原告宅に電話したところ、Bが応対したので、Bに対し、調査の日程の件について原告に伝えたかどうかを確認したところ、Bは、原告は何回言われても来月でないと都合がつかないと言っている旨話した。そこで、A係官は、同年九月二四日までに、調査の日程につき具体的にいつが都合がよいか連絡して欲しい旨、及び、できれば一〇月の第一週に調査の日程を入れたい旨話した。
(六) 平成三年九月二四日、BからA係官あてに電話があったが、A係官が不在であったため、Bは応対した係官に対し、同年一〇月三一日午後二時ころ調査に来てもらいたい旨を伝えた。
(七) 平成三年九月二六日、A係官は原告宅に電話し、応対したBに対し、一〇月の第一週に調査の日程を入れてもらえるとのことであったのだから、一〇月三一日でなく、一〇月の第一週または第二週に調査の都合がつかないか、再度原告と連絡を取って、九月三〇日までに返事をもらいたい旨を伝えた。
(八) 平成三年一〇月三日、同年九月三〇日までに原告からA係官に対し連絡がなかったので、A係官が原告宅に電話したところ、原告は不在であり、応対したBが、一〇月一六日午後なら都合がよい旨話したので、同日午後一時三〇分ころ原告宅を訪問する旨伝え、もし都合が悪い場合には原告自身からA係官に連絡をするようにBに依頼し、了承を得た。
(九) 平成三年一〇月一五日、BからA係官あてに電話があったが、A係官が不在であったため、Bは応対した係官に対し、明日の調査の時刻を午後一時三〇分から午後二時に変更するよう申し入れた。
(一〇) 平成三年一〇月一六日午後二時ころ、A係官が原告の所得税及び消費税の調査のため、原告宅に臨場したところ、原告宅内には、原告、B、γ民主商工会の事務局長Cほか六名が待機していた。
A係官は、身分証明書及び質問検査章を原告に提示し、調査は確定申告の内容を確認するもので、昭和六三年分ないし平成二年分までの三年間の所得税の調査であり、さらに、消費税についての課税事業者に該当する場合には、併せて消費税の調査も行う旨を原告に告げ、そして、所得金額は、収入金額から必要経費を控除して算定されるため、金銭出納帳、売上帳、仕入帳、領収書などの記録書類(以下、「帳簿等」という。)を全部提出し、調査に協力をするように求めた。
その際、原告は、調査日程を決めるに当たっての電話でのやりとりの中で卑怯者呼ばわりしたことについて謝れなどと主張した。また、C事務局長は、A係官に対し、調査の具体的理由の開示を求めた。この時、A係官は、一切謝罪をしなかった。
A係官は、午後三時二〇分、原告宅を辞去した。
(一一) 平成三年一〇月一七日、BからA係官に対し、同月一八日午後二時に調査に来て欲しい旨の連絡があったが、同日は、既にA係官の予定が入っていた。そこで、A係官は、原告と調査の日程調整をするため原告宅に電話し、応対したBに、他に調査に都合のよい日を調整して、翌一八日午前中に原告から連絡して欲しい旨依頼し、了承を得た。
(一二) 平成三年一〇月一八日午前八時四〇分ころ、BからA係官あてに電話があり、次回調査期日は同月二五日午後二時からと決まった。また、A係官はBに対し、前回の調査の際は話しも落ち着いてできるような状況ではなかったので、次回の調査の際には、昭和六三年ないし平成二年までの三年間分の帳簿等を用意して調査に協力するように依頼し、了承を得た。
(一三) 平成三年一〇月二五日午後二時ころ、A係官は原告宅に臨場し、原告及びBに面接をした。その際、C事務局長も原告らと同席していた。
A係官は、原告らに税務署独自の調査を進める旨伝えて午後二時一〇分ころ原告宅を辞去した。
その後、原告からA係官に電話があったが、その際、A係官は、原告に対し、税額を算定するには、まず総収入額から必要経費を控除して所得金額を算定しなければならないので、帳簿等を全部見せてもらえなければ正しい所得金額が確認できない旨を説明した。
(一四) 平成三年一〇月三〇日、BからA係官あてに電話があり、次回の調査期日を同年一一月八日午後二時としてもらいたい旨の依頼があった。
(一五) 平成三年一一月二日、A係官は原告宅に電話し、応対したBに対し、納付すべき税額を知らせて欲しいとの点については、まだ調査に時間がかかり八日までには間に合わない旨を伝えた。
(一六) 平成三年一一月五日、A係官は原告宅に電話し、応対したBと話した。
(一七) 平成三年一一月七日、BからA係官あてに電話があり、原告の都合を考慮して、調査予定日を一一月一八日午後二時に変更した。
(一八) 平成三年一一月一八日午後二時ころ、A係官は原告宅に臨場し、原告及びBと面接した。その際、C事務局長が同席していた。A係官は、原告らに対し、現時点での調査結果に基づく昭和六三年分ないし平成二年分の所得税の所得金額、所得税の額を口頭で伝えた。
A係官は、原告から差し出された領収書を書き写し、午後四時四五分ころ原告宅を辞去した。
(一九) 平成四年一月八日、A係官は原告宅に電話し、応対したBに対し、来週までに調査の日程を入れることができるように依頼し、同月一七日、BからA係官に、同月二一日午後二時なら調査につき都合がよいとの連絡があった。
(二〇) 平成四年一月二一日午後二時ころ、A係官は原告宅に臨場し、原告及びBと面接したが、その際、C事務局長も同席していた。その席で、A係官は、原告らに税務調査を同月中には終了したいことを伝えた。また、A係官は、平成二年分の接待交際費の領収書の一部を書き写した。
A係官は、領収書の確認に時間がかかったことから、他の帳簿書類及び領収書等を借受けて検討し、調査の進展を図りたい旨原告に話したが、原告らはこれを拒絶した。
また、A係官は、原告に対し、今週あるいは来週中に調査の日程を入れてもらえなければ、税務署独自に調査を進める旨話し、午後四時五〇分ころ原告宅を辞去した。
その後、同月二七日、BからA係官あてに連絡があり、次回の調査期日が同月三一日午後二時と決定した。
(二一) 平成四年一月三一日午後一時五五分ころ、A係官及び被告所部係官Dが原告宅に臨場し、原告及びBと面接したが、その際、C事務局長も同席していた。
A係官は、原告に対し、税務署独自の調査を進める旨伝えた。これに対し、C事務局長は、更正処分をするというのなら、その前に更正の請求を出す旨主張した。
この日、A係官は、午後二時三〇分ころ辞去した。
(二二) 平成四年二月三日、原告から、平成四年二月一日の郵便局の消印がある郵便書留により、「平成二年分所得税の更正の請求書」(以下、「更正の請求書」といい、これによる請求を「更正の請求」という。)が、被告宛に郵送された。
更正の請求書には、更正の請求の理由として、平成二年分の所得税の確定申告書において、必要経費に該当する消耗品の二万円分につき計上漏れがあったと記載されていた。
(二三) 平成四年二月四日、A係官は、原告宅に電話し、応対したBに対し、原告と調査結果について話したいことがある旨を伝え、原告につき同月一二日午前一〇時に前橋税務署に来られたい旨、また、その際、提示する帳簿等があれば持参するように伝えた。
(二四) 平成四年二月一九日、C事務局長からA係官に対して電話があったが、その際、A係官は、提示する帳簿等があれば、同月二五日までにそれを持参して前橋税務署まで来るように原告に伝えて欲しい旨話した。
(二五) 平成四年二月二五日、A係官は、原告宅に電話し、応対したBに対し、更正の請求については、その内容を確認した上でないと認めることができないので、原告が、更正の請求の所得金額を算定した基となる帳簿等や収支内訳書などを持参して、同月二七日午前一〇時に前橋税務署に来るよう、もし都合が悪ければ、遅くとも同年三月二日までに来るように伝えた。
(二六) 被告は、平成四年三月二日までに原告が前橋税務署に来なかったことから、同月三日付けで、更正の請求に対して、更正をすべき理由がない旨の通知をした。
(二七) 平成四年三月四日、被告は、同日付けで、本件所得税更正処分等及び本件消費税決定処分等を行った。
二 争点及びこれに対する当事者の主張
1 本件所得税更正処分等に推計の必要性があるか。
(被告の主張)
以下の事実経過のように、原告は、A係官らによる平成三年八月から平成四年三月までの長期にわたる調査に際し、その調査過程における帳簿等についての再三にわたる提示要請に対して、平成二年分の接待交際費の領収書の一部を提示したのみで、その他の書類については全く提示することはなく、原告の所得金額の計算根拠を明らかにしようとはしなかった。このような状況の下では、被告が、原告の所得税について所得金額を帳簿等に基づく実額計算の方法により算定することは到底不可能であり、推計により所得金額を算定する必要性があったことから、やむを得ず、原告の取引先等に対する調査によって把握した収入金額を基礎として、原告の本件各係争年分の所得税について所得金額を推計の方法により算定したところ、原告の本件各係争年分の所得税の所得金額が過少と認められたため、所得税法一五六条の規定に基づき更正処分を行ったものであり、本件について推計の必要性が存在したことは明らかである。
(一) 被告は、前記一1(一)のとおり、原告の各確定申告書に収入金額及び必要経費の記載がなく、また、収支内訳書の添付もなかったことから、所得金額の算出過程が不明であり、消費税については、課税事業者に該当するか否か確認する必要があったことから、原告の申告内容が適正であるか否かについて調査を行う必要があると認め、A係官に対し、原告の申告内容の調査を命じた。
(二) A係官は、平成三年八月一一日午前一〇時ころ、税務調査のため原告宅に臨場した際、原告が不在であったため、前記一2(一)記載の文書を原告宅に差し置いた。
(三) 前記一2(二)の際、A係官は、Bに、原告宅を訪問するのは昭和六三年分ないし平成二年分の申告内容の確認のためであること、訪問した際に右各年分の帳簿書類を用意しておくこと及び前記の日程の件を伝え、了承を得た。
(四) 前記一2(三)の際、A係官がBに伝えた件について、Bから了承を得た。
(五) 前記一2(四)の際、原告は不在であった。また、A係官がBに伝えた件について、Bの了承を得た。
(六) 前記一2(五)の際、原告は不在であった。また、A係官がBに伝えた件について、Bの了承を得た。原告がA係官に連絡できない具体的な理由については、何も聞いていない。
(七) 前記一2(七)の際、原告は不在であった。また、A係官がBに伝えた件について、Bの了承を得た。
(八) 前記一2(八)の際、A係官は、Bに対し、これ以上調査に協力してもらえないようなら、税務署独自の調査を進める場合もあることを伝えた。
(九) 前記一2(一〇)の際、前記のほか、原告は、正しく申告している者は一人もいない旨主張し、C事務局長は、税務署の方から資料を見せないと帳簿等は見せられない旨主張した。結局、帳簿等の提示はなく、一切の調査協力が得られなかった。そのため、A係官は、これ以上調査の進展は望めないと判断し、前記の時間に原告宅を辞去した。なお、A係官が謝罪をしなかったのは、Bに対して卑怯者などの発言をした事実が全く存在しなかったからである。
また、所得税法二三四条一項は、税務署の職員等の質問検査権について定めるところ、質問及び検査は、租税実体法によって成立した納税義務を具体的に確定するための事実行為であって、課税処分とは本来別個のものであることから、調査手続の違法は、それが刑罰法規に触れ、公序良俗に反しまたは社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたる等重大な違法を帯び、何らの調査なしに更正処分をしたに等しいものとの評価を受ける場合に限り、課税処分の取消事由になると解するのが相当であるところ、本件では、右のような著しい違法があったとは到底認められない。
さらに、税務職員が、調査理由の開示を行うか否かは権限ある税務職員の合理的裁量に委ねられ、調査理由の開示をしなかったことが税務調査の違法をもたらすものではない。
(一〇) 前記一2(一三)の際、C事務局長が話の途中で、「卑怯者呼ばわりされたことを謝らないと調査協力できないよ。」と言いながら、傍らから領収書の綴りをテーブルの上に出したが、それが領収書の全部であることは知らない。
この時、A係官は、原告に帳簿等の提示の調査協力を要請したが、原告は、「ばか、ばか、ばかだな、ただで見せる奴がいるかよ。見せ賃よこせ。」、「謝らないとだめだ。」などと主張し、全く調査協力が得られなかった。
(一一) 前記一2(一四)の際、Bから、次回の調査期日までに納付すべき税額を知らせて欲しい旨の要望があったが、A係官は、正しい所得金額は税務署長が勝手に決めるものではないので、取引先等の調査を進めた上で、平成三年一一月八日までに調査結果が出るよう努力する旨伝えた。
(一二) 前記一2(一五)の際、原告は不在であった。また、A係官は、Bに対し、前記のほか、平成三年一一月八日は申告の基になった帳簿等を確認させてもらえるのなら調査に行くこと、原告から帳簿等を確認させてもらえるか否かについての連絡が欲しい旨話し、了承を得た。
(一三) 前記一2(一六)の際、原告は不在であった。また、A係官は、Bに対し、原告から帳簿等の確認の件につき連絡がない旨、取引先を調査している過程で原告が消費税の課税事業者に該当することが判明したため、仕入税額控除に関する帳簿等の提示がなければ、消費税の申告において仕入税額控除ができない旨を説明し、原告から早急にA係官あてに連絡を取るよう依頼し、了承を得た。
(一四) 前記一2(一八)の際、A係官は、原告から納付すべき税額を教えて欲しい旨告げられていたことから、その点についてはいまだ調査途中である旨を伝えた上で、現時点での調査結果に基づく前記の所得税の所得金額等のほか、平成二年分の消費税の税額の概算を口頭で伝えた。そして、A係官は原告に対し、税務調査につき協力を要請し、昭和六三年分ないし平成二年分の収入金額及び必要経費についての帳簿等の提示を求め、また、消費税については、帳簿書類または請求書等の提示がなければ必要経費にかかる仕入税額控除ができなくなり、その結果、税額にかなりの変動がある旨を説明した。
これに対し、原告は、金はもうないなどと言い、また、C事務局長は、外注費の領収書については外注先に迷惑がかかるから見せられない、一〇〇万円くらいの税金ならどうにかする旨を告げた。
その後、原告からA係官に対し、平成二年分の接待交際費の領収書の一部が差し出され、ここから書き写すように告げられたが、他の帳簿等の提示はなかった。そのため、A係官は、他の帳簿等の提示要請をし、消費税の仕入税額控除については帳簿等の提示がなければ認められないことを説明した。
A係官は、差し出された領収書のうち七四枚分を書き写した。
(一五) 平成三年一一月二八日、A係官は、原告宅へ電話をかけたが、原告は不在であった。そこで、応対したBに対し、帳簿等を確認できない場合には、所得税については推計の方法により所得金額を算定し、消費税については必要経費にかかる仕入税額控除ができなくなる旨を説明した上で、早期に帳簿等が確認できるよう、同年一二月二日までに原告から調査期日を連絡するように依頼し、了承を得た。
なお、被告税務署においては、担当者が例え不在であっても、担当者に連絡すべき事項がある場合は、伝言をメモ書きにして担当者に伝える仕組みになっているところ、原告からA係官に連絡があったとの記録は全くない。
(一六) 前記一2(一九)の際、原告は不在であった。また、A係官は、Bに対し、前記のほか、帳簿等の確認ができない場合には、所得税については推計の方法により所得金額を算定し、消費税については必要経費にかかる仕入税額控除ができなくなり、課税売上の三パーセントが納付税額になる旨を説明した。
(一七) 前記一2(二〇)の際、A係官は、原告らに対し、前記のほか、調査を午後二時からではなくもっと早い時間帯から行えるよう協力して欲しいことを依頼したが、C事務局長は、気長に調査をするよう主張した。A係官は、原告に対し、収入金額及び外注費についての書類の提示を求めたが応じてもらえず、差し出された領収書について二三八枚を書き写した。
A係官が、領収書の借り受けについて原告らに話した際、C事務局長は、それらは大事なものだからだめだ、帳簿等を借りていくのは押収だ、帳簿等を借りたいのなら令状を持ってくるようになどと言った。A係官は、原告に対し、帳簿等が借りられないと言うことであるならば、明日もまた引き続き調査を行いたい旨依頼したが、原告は、のんびり調査をすればよいではないか、自分に対しで税金を払うために協力しろというのかなどと言うのみで、協力は得られなかった。
そこで、A係官は原告に対し、次回の調査時には、書類を借りるとか、何人かで調査を行うとかして、昨年八月から始まった調査を今月中には終了させたい旨申し入れ、前記の日程の話などをした。
(一八) 前記一2(二一)の際、A係官らは、まず、原告に対し、申告の基になった帳簿書類の全てを提示するよう要請したが、提示がなかったので、とりあえず収入の分かる帳簿書類を提示するよう、再三要請した。これに対し、原告は、「帳簿は見せない。」、「納税者の権利が書いてあるこの本のとおりやるから、調査がいつまでかかってもよい。」、「やだよ。俺は見せない。」、「税金が安ければ払うよ。職人に三人やめられて、この間は八〇〇〇万円の伊香保の仕事が取れなかった。税務署でなかったら車を潰してやるところだ、よく手を出さないよ。」などと言うのみで、結局、原告から帳簿等が提示されることはなく、調査協力が得られなかった。
(一九) 前記一2(二四)の際、C事務局長は、原告は忙しくて行くことができない旨告げた。
(二〇) 前記一2(二五)の際、原告は不在であった。また、A係官がBに伝えた件について、Bから了承を得た。
(原告の主張)
以下のとおり、原告は、被告の調査に協力していたにもかかわらず、被告の係官が調査努力を怠って推計課税をしたものであるから、本件所得税更正処分等は、納税者の実際の所得が把握可能であるにもかかわらず、推計の方法によってなされた課税処分であって、推計の必要性を欠く課税処分として違法であり、取消を免れない。
(一) 前記一2(二)の際、Bは、A係官から前記の日時に訪問したい旨話されたが、これを了承してはいない。主人に聞いてみないと分からないので後日また連絡すると答えた。
(二) 前記一2(三)の際、Bは了承しておらず、本人に話をしないと回答できないと答えた。なお、原告は、当時、αでの工事を年内に完成させなければならないということで休日も返上して働いていたことから、直ぐに都合のよい日を決めて連絡することができなかった。
(三) 前記一2(四)の際、Bは了承していない。
(四) 前記一2(五)の際、Bは了承していない。Bは、A係官に対し、αの工期が年内ということでそれまでに仕事を完成させなければならないので、本人は今手が離せないと言っている旨伝えた。また、Bは、自分の一存では答えられないと話した。
(五) 前記一2(七)の際、Bは了承していない。なお、一〇月の第一週に調査の日程を入れることについても、Bは了承していない。この時、A係官は、Bに対し、語気鋭く卑怯者などの暴言を吐いた。
(六) 前記一2(一〇)の際、Bは、A係官に対し、卑怯者呼ばわりするなどの暴言を吐かれたことに謝罪を求めたことはあるが、これは当然の要求である。
また、この際、原告は、領収書等の資料を準備して待っていた。調査の具体的理由も開示せず、一方的に帳簿等の提示を求めるA係官の対応は適正手続の要請に反する不当なものである。
(七) 前記一2(一三)の際、原告は、自宅居間のテーブルの上に領収書の綴り全てを出しており、かつ、高速道路の領収書等をA係官に手渡した。これに対し、A係官は、「こんなものを見てもしょうがない。とにかく売上だ。」と話した。A係官の対応は、全く調査する気がないとしか考えられないものであった。
(八) 前記一2(一六)の際、Bは、A係官から「今度行ったとき売上の資料を見せて欲しい。」と話されただけで、消費税のことなど一切説明を受けていない。
(九) 前記一2(一八)の際、原告は、領収書等の資料全てをA係官の目の前のテーブルの上に置いていた。原告は、そのうち経費の中で一番問題とされそうな平成二年分の接待交際費の領収書綴り五冊全てをA係官に差し出し、まずこれを見て内容を確認してもらいたいと話した。ところが、A係官は、領収書綴りを書き写し始め、途中で書き写すのをやめて帰った。なお、途中で原告らはA係官に対し、「見て確認するだけでいいのではないか。」と話しかけたところ、A係官は、「消費税については領収書全部を書き写さなければ控除できないのだ。」と答えた。
(一〇) 平成三年一一月一八日の調査後、A係官から原告に連絡が来なくなった。そこで、原告は、年内に調査に来てもらわないと更正処分をかけられるのではと不安に患い、平成三年中に二、三回、A係官に電話をかけたが、A係官はいずれの時も不在であった。このように、原告は、いつでも調査に応じられるよう資料を揃えてA係官が調査に来るのを待っていた。
(一一) 前記一2(二〇)の際、原告は領収書等の借り受けの申込を拒否したが、これは業者にとって大切な書類というだけではなく、被告の調査はあくまで任意調査であり、A係官の申し入れは質問検査の範囲を超えていることからこれに応ずる義務はないと判断したからである。
また、原告らはA係官に対し、「一人だけではとても間に合わないと思うので何人かで来たらどうか。」と話した。
(一二) 前記一2(二一)の際、原告は領収書を全てテーブルの上に置いてあったところ、A係官らはそのうち売上関係の帳簿の提示のみ求めてきたため原告はこれを拒否した。調査当時、原告は銀行から預金通帳のマイクロフィルムの写しなどを取り寄せ、売上先の月別の売上金額全てを整理してあったから、これらの資料の提示を拒否するつもりはなかった。しかし、A係官らにおいて、このころ、まともに経費全てについて調査する意思がないことが分かった。そして、当時の前橋税務署のやり方からして、もし最初に売上関係の帳簿等を見せればそれで調査を打ちきり経費を推計して課税してくることが明らかだったため、まず経費の確認を求めた。原告は、A係官らに対し、「接待交際費の領収書の書き写しも途中ではないか。とにかく二人で確認すれば間に合うので書き写しではなく全部目を通して確認して欲しい。」と申し入れた。これに対し、A係官らは、「申告準備で忙しい。こんなことやっておれない。」と言った。このようなA係官らの対応は、調査の一方的な打切であり、調査放棄と評価されてもやむを得ないものである。なお、C事務局長が更正請求を出す旨話したのは、調査を継続して欲しかったからである。
(一三) 前記一2(二四)の際、C事務局長は、A係官に対し、「調査途中でなぜ帰ってしまったのか。調査してもらいたいから更正の請求も出してある。」と話し、原告宅に来て調査を継続するよう伝えた。
(一四) 前記一2(二五)の際、Bは了承していない。
2 被告の推計課税に合理性があるか。
(被告の主張)
(一) 被告が主張する原告の昭和六三年から平成二年までの事業所得金額及び納付すべき税額の計算根拠は以下のとおりである。
(1) 昭和六三年分 事業所得金額 七六一万四五四八円
納付すべき税額 七九万九二〇〇円
①総収入金額 六六〇九万八五一一円
右金額は、被告が把握し得た原告の大工工事業にかかる昭和六三年分の収入金額の合計額であり、その内訳は以下のとおりである。
(ア) 株式会社プラザ建設 五六〇〇万二〇〇〇円
(イ) 株式会社下村工業 三四〇万〇七一一円
(ウ) E 四五〇万〇〇〇〇円
(エ) 阿部建設株式会社 一六九万五八〇〇円
(オ) 丸善建設株式会社 五〇万〇〇〇〇円
② 事業専従者控除前の所得金額 七六一万四五四八円
右金額は、右①の総収入金額六六〇九万八五一円に、原告と同種の大工工事業を営み、かつ、原告と事業規模が類似する者(以下、「比準同業者」という。)の総収入金額に占める特前所得金額(総収入金額から売上原価の額及び経費の額を控除して算定した青色申告特典控除前の所得金額をいう。)の割合の平均値(以下、「平均特前所得率」という。)である〇・一一五二(別表三)を乗じて算出した金額である。
③ 事業所得の金額 七六一万四五四八円
原告には、所得税法五七条三項に規定する事業専従者がいないと認められるので、右②の金額が事業所得の金額となる。
④ 所得控除の合計金額 二一一万八五〇〇円
右金額は、所得控除の額の合計額であり(昭和六三年法律一〇九号による改正前の所得税法七二条ないし八四条、八六条)、原告の申告額と同額である。
⑤ 納付すべき税額 七九万九二〇〇円
右金額は、所得税法八九条二項の規定に基づき、右③の事業所得の金額七六一万四五四八円から右④の所得控除の額の合計額二一一万八五〇〇円を控除した課税総所得金額五四九万六〇〇〇円(国税通則法一一八条一項の規定により、一〇〇〇円未満の端数は切り捨て)に、昭和六三年法律一〇九号による改正前の所得税法八九条一項の規定による税率を乗じて算出した金額である。
(2) 平成元年分 事業所得金額 九三三万八五六一円
納付すべき税額 一一七万九〇〇〇円
① 総収入金額 八六二二万八六四〇円
右金額は、被告が把握し得た原告の大工工事業にかかる平成元年分の収入金額の合計額であり、その内訳は、以下のとおりである。
(ア) 株式会社プラザ建設 六一六〇万七〇〇〇円
(イ) 株式会社下村工業 一五八〇万一六四〇円
(ウ) 白岩建設株式会社 七八二万〇〇〇〇円
(エ) F 一〇〇万〇〇〇〇円
② 事業専従者控除額控除前の所得金額 九三三万八五六一円
右金額は、右①の総収入金額八六二二万八六四〇円に、比準同業者の平均特前所得率である〇・一〇八三(別表四)を乗じて算出した金額である。
③事業所得の金額 九三三万八五六一円
原告には所得税法五七条三項に規定する事業専従者がいないと認められるので、右②の金額が事業所得の金額となる。
④ 所得控除の合計金額 二四〇万八四〇〇円
右金額は、所得控除の額の合計額であり(平成六年法律一〇九号改正前の所得税法七二条ないし八四条及び八六条)、申告額と同額である。
⑤ 納付すべき税額 一一七万九〇〇〇円
右金額は、所得税法八九条二項の規定に基づき、右③の事業所得の金額九三三万八五六一円から右④の所得控除の額の合計額二四〇万八四〇〇円を控除した課税総所得金額六九三万円(国税通則法一一八条一項の規定により、一〇〇〇円未満の端数は切り捨て)に、平成六年法律一〇九号改正前の所得税法八九条一項の規定による税率を乗じて算出した金額である。
(3) 平成二年分 事業所得金額 一〇六二万九五〇九円
納付すべき税額 一五五万五五〇〇円
①総収入金額 一億〇四二一万〇八七五円
右金額は、被告が把握し得た原告の大工工事業にかかる平成二年分の収入金額の合計額であり、その内訳は以下のとおりである。
(ア) 株式会社プラザ建設 五八〇一万三〇〇〇円
(イ) 白岩建設株式会社 三四三四万七八七五円
(ウ) 株式会社
武本工務店 一一五〇万〇〇〇〇円
(エ) 睦建設株式会社 三五万〇〇〇〇円
② 事業専従者控除額控除前の所得金額 一〇六二万九五〇九円
右金額は、右①の総収入金額一億四二一万〇八七五円に、比準同業者の平均特前所得率である〇・一〇二〇(別表五)を乗じて算出した金額である。
③事業所得の金額 一〇六二万九五〇九円
原告には、所得税法五七条三項に規定する事業専従者がいないと認められるので、右②の金額が事業所得の金額となる。
④ 所得控除の合計金額 二四四万四一五〇円
右金額は、所得控除の額の合計額であり(平成六年法律一〇九号改正前の所得税法七二条ないし八四条及び八六条)、申告額と同額である。
⑤ 納付すべき税額 一五五万五五〇〇円
右金額は、所得税法八九条二項の規定に基づき、右③の事業所得の金額一〇六二万九五〇九円から右④の所得控除の額の合計額二四四万四一五〇円を控除した課税総所得金額八一八万五〇〇〇円(国税通則法一一八条一項の規定により、一〇〇〇円未満の端数は切り捨て)に、平成六年法律一〇九号改正前の所得税法八九条一項の規定による税率を乗じて算出した金額である。
(二) 原告の所得金額に関する推計課税の合理性について
被告が原告の事業所得の金額を算出するに当たり採用した推計の方法は、原告の取引先を調査することにより被告が把握し得た原告の本件各係争年分についての事業所得にかかる総収入金額に、比準同業者の平均特前所得率を乗じて、本件各係争年分の事業所得の金額を算出したものであるところ、比準同業者は次のようにして抽出された。
すなわち、関東信越国税局長が被告前橋税務署長に対し、同税務所管内において原告と同様に所得税の納税地を有する個人事業者のうち、本件各係争年分ごとに次の(1)ないし(5)の全てに該当する者の報告を求めたところ、別表三ないし五のとおりの報告があった。
(1) それぞれの年分の暦年を通じて、大工工事業を継続して営んでいた者であること
(2) 大工工事業以外の事業を兼業していなかった者であること
(3) 所得税青色申告決算書を提出していた者であること
(4) 年間の売上(収入)金額が、次の範囲内にある者であること
昭和六三年分 三三〇四万九二五五円以上一億三二一九万七〇二二円未満
平成元年分 四三一一万四三二〇円以上一億七二四五万七二八〇円未満
平成二年分 五二一〇万五四三七円
以上二億〇八四二万一七五〇円未満
(5) 次のイ及びロのいずれにも該当しない者であること
イ 災害等により経営状態が異常であると認められる者
ロ 税務署長から更正または決定処分がされている者のうち、次の(イ)または(ロ)に該当する者
(イ) 当該処分について国税通則法または行政事件訴訟法の規定による不服申立期間または出訴期間の経過していない者
(ロ) 当該処分に対して不服申立がされ、または訴えが提起されて現在審理中である者
なお、大工工事業という業種の分類は、日本標準産業分類に準じて分類されているが、日本標準産業分類における大工工事業は、大工工事業と型枠大工工事業とに細分化されており、そもそも型枠大工工事は狭義の大工工事業には含まれていない。また、大工工事業は、建設工事を直接請け負うわけはなく、その大工工事部分を下請けする業種であり、木造建築を直接請負う業者については、木造建築工事業と分類されている。
以上のとおりであるから、右比準同業者の抽出過程に被告の悉意が介在する余地はなく、また、右抽出された比準同業者はいずれも原告と業種が同一であり、その事業規模も類似している青色申告者であるから、右比準同業者の平均特前所得率を適用して原告の事業所得の金額を算出した本件推計課税は合理的なものである。
なお、推計の方法として同業者率を求める場合は、抽出された同業者間において、各比率に偏差ないし開差が存することはもとより当然の事柄であり、同業者間に通常存在する程度の差異は、同業者間に存在する個別事情として、平均値を求める過程に包摂され解消されるものとするのが同業者率を用いる推計の前提なのであって、偏差や開差の存在は、それ自体直ちに推計の合理性を失わしめる事由とはなり得ない。
(三) 前記(一)の本件各係争華分の総所得金額及び納付すべき税額は、本件所得税更正処分(ただし、平成二年分については裁決により一部取消後のもの)における同期間の総所得金額及び納付すべき金額(昭和六三年分及び平成元年分については、前記一1(三)(1)及び(2)記載のとおり、平成二年分については別紙一のとおり)をいずれも上回るから、本件所得税更正処分(ただし、平成二年分については裁決により一部取消後のもの)はいずれも適法である。
(四) 被告は、原告が本件所得税更正処分に伴い新たに納付すべきこととなった本件各係争年分の税額を基礎として、次のとおり各過少申告加算税の賦課決定を行ったものであるから、本件過少申告加算税賦課決定処分(ただし、平成二年分については裁決により一部取消後のもの)はいずれも適法である。
(1) 昭和六三年分 五万六〇〇〇円
右金額は、右年分の所得税更正処分により新たに納付すべきこととなった税額五四万円(国税通則法一一八条三項により、一万円未満の端数は切り捨て)に、国税通則法六五条一項に基づき、一〇〇分の一〇の割合を乗じて計算した金額五万四〇〇〇円と、同条二項に基づき、原告が新たに納付すべきこととなった税額(五四万六一〇〇円)のうち五〇万円を超える部分に相当する金額である四万円(国税通則法一一八条三項により、一万円未満の端数は切り捨て)に一〇〇分の五を乗じて計算した金額二〇〇〇円との合計額である。
(2) 平成元年分 九万二〇〇〇円
右金額は、右年分の所得税更正処分により新たに納付すべきこととなった税額七八万円(国税通則法一一八条三項により、一万円未満の端数は切り捨て)に、国税通則法六五条一項に基づき、一〇〇分の一〇の割合を乗じて計算した金額七万八〇〇〇円と、同条二項に基づき、原告が(新たに納付すべきこととなった税額(七八万二五〇〇円)のうち五〇万円を超える部分に相当する金額である二八万円(国税通則法一一八条三項により、一万円未満の端数は切り捨て)に一〇〇分の五を乗じて計算した金額一万四〇〇〇円との合計額である。
(3) 平成二年分 一一万〇〇〇〇円
右金額は、若年分の所得税更正処分(ただし、平成二年分については裁決により一部取消後のもの)により新たに納付すべきこととなった税額九〇万円(国税通則法一一八条三項により、一万円未満の端数は切り捨て)に、国税通則法六五条一項に基づき、一〇〇分の一〇の割合を乗じて計算した金額九万円と、同条二項に基づき、原告が新たに納付すべきこととなった税額(九〇万〇五〇〇円)のうち五〇万円を超える部分に相当する金額である四〇万円(国税通則法一一八条三項により、一万円未満の端数は切り捨て)に一〇〇分の五を乗じて計算した金額二万円との合計額である。
(原告の主張)
(一) 推計課税に合理性が認められるには、①推計の基礎となる事実が正確に把握されていること、②推計方法自体が、真実の所得に近い数値が算出されるような客観性を持った方法であること、③種々の推計方法のうち、最適な方法が選択されること(推計方法の最適性)の要件が必要であるところ、被告の推計課税はこれらの要件を満たしていない。
(二) 同業者抽出基準の不合理性
一口に大工工事業といっても、その事業実態により、大工工事、型枠工事、造作工事に分類され、しかも、各工事でも立地条件、元請と下請の比率、下請の場合は、材料が自分持ちか否か、さらには外注費の占める割合などにより事業実態が異なる。そして、それぞれの事業実態により所得率に差異が生じることは明らかであり、以下のような原告の個別事情を一切無視するなどして行った推計方法には合理性がない。
(1) 原告の事業実態は、アール・シー工事という鉄筋コンクリートの内部造作工事がほとんどであり、いわゆる在来の木工事である大工工事や建物の基礎工事としてコンクリートを流し込む型枠工事は全く行っていない。しかも、オール下請ということで材料は全て元請持ちで材料仕入の際のマージンはなく、手間賃だけである。したがって、被告が同一の業種として主張する大工工事業だけでは、原告の所得を推計するに足りる類似性のある同業者とすることはできない。
(2) 被告が同業者として抽出した業者の各年分の所得率には、大幅なばらつきがある。これは、事業実態の無視により、被告が抽出条件としていない条件が所得率に大きな影響を与えているからであると考えられ、そのような条件の差異を無視して平均化された数値には何の意味もない。したがって、その平均値をもって原告の所得課税の推計をすることは不合理である。
(3) 原告は多くの下職を使っているところ、同業者のほとんどは労災保険や傷害保険に加入していないが、原告は元請会社に迷惑をかけることにより仕事に影響が及ぶことを恐れ、下職全員に傷害保険をかけていた。その保険料は、平均して年間約七〇万円から八〇万円にのぼるところ、この分他の同業者よりも経費が多くかかっている。
(4) 原告は群馬県β五六二番地という前橋から約三〇キロメートル離れ字通り山奥に居住し、そこに作業所を有しているところ、昭六三年から平成二年にかけての原告の仕事先は、埼玉県の浦和、大宮、川越、鶴ヶ島、本庄、新潟県の越後湯沢、群馬県の草津、水上とその大半が遠方であり、他の同業者に比べてガソリン代、高速料金等の経費も多くかかっている。
(三) また、被告は、通達回答方式を採用し、被告が抽出した同業者が原告と類似性のある同業者かどうかの判断材料の提出を一切拒んでいるが、このような立証方法は、当事者対等の原則に反し、かつ、訴訟上の信義誠実の原則に照らして許されない。このような被告の推計方法は、それ自体合理性がない。
3 原告の実額反証の成否
(原告の主張)
原告の主張する経費の実額について客観的な帳簿等による裏付けがあると認められるときは、被告の主張する推計方法が合理的なものと認められるか否かを問うまでもなく、原則として実額による金額をもって各年分の経費の額とすべきである。原告の平成元年及び平成二年分の事業所得金額の実額は次に述べるとおりである。
(後記被告の主張(一)に対して)
なお、実額反証における証明の程度は、民事訴訟の一般的な証明の程度と異なるところはなく、証拠の優越で足りるというべきである。また、一般的な立証責任の原則として、ある事実が「ないこと」を証明することは不可能であるから、ある事実が存在することによって利益を得る側が、その事実の存在を主張立証すべきであり、原告が主張する以外にも収入が存在することについては被告に立証責任があると解すべきである。
また、被告は、直接費用については収入との個別的対応を主張立証すべきとするが、そもそも事業所得の金額は、その年中の事業所得にかかる総収入金額から必要経費を控除した金額とされているから、原告としては、その支出が当該年度の事業に関するものであること、すなわち収入と支出の間の総体的対応関係を主張すれば足りる。
さらに、被告は、原告の主張する収入金額が全ての取引についての補足漏れのない総収入金額であることを立証すべきとするが、ある事実が「ないこと」を立証することは不可能であるから、ある事実が存在することによって利益を得る側がその事実の存在を主張立証すべきである。
少なくとも、原告主張の収入金額に補足漏れがあることを疑うに足りる理由が示されたり、原告の経費実額の主張が、その収入金額と通常バランスを失するものであることが示されたような場合において、初めて実額主張にかかる収入金額と経費との対応関係の立証が必要とされると解すべきである。本件においては、原告は被告がその推計の基礎とした原告の収入金額を上回る金額を収入金額として主張しており、かつ、売上先ごとにその内訳金額をも明らかにしていること、原告の実額主張における算出所得率は、被告主張の比準同業者の平均所得率よりは低いものの抽出された同業者の中にはこれを下回る率の者も存在すること、原告の主張する収入のほかに収入があることを推測させるものがないことからして、被告主張の対応関係の立証を必要とすべき場合に当たらない。
なお、原告が証拠として提出した領収証等は、ほぼ完壁な形で保存されている。一人で大工工事業を営む者でこれだけ完壁に近い形で原始記録を保存しているケースはまれである。
(一) 平成元年分について
(1) 総収入金額 八六三六万三五四〇円
①プラザ建設株式会社 六一六〇万七〇〇〇円
②下村工業株式会社 一五八〇万一六四〇円
③白岩建設株式会社 七八二万〇〇〇〇円
④F 一〇〇万〇〇〇〇円
⑤株式会社岡部養豚 六万二八〇〇円
⑥G 七万二一〇〇円
(後記被告の主張(二)に対して)
原告が主張する以外にも収入が存在することについては被告に立証責任がある。
(2) 一般経費 一六七一万六四九九円
① 仕入れ 二五五万六〇〇二円
(後記被告の主張一(三)(1)に対して)
原告の大工工事業という事業実態からして、材木・新建材等の経費性は明らかであり、かつ、支払先の領収書等により支払時期及び支出先も明確にされていて、その支出が当該年度の事業に関するものであることは疑う余地がない。
② 公租公課 一九万七八三〇円
(後記被告の主張(三)(2)に対して)
甲一一の5、8はいずれも中古車で購入し、当時耐用年数の切れていたトラックである。甲一一の2、9は、原告の父H名義の自動車で、甲一一の7は、同じくH名義のバイクであるが、Hは原付自転車及び普通自動車の免許を有しておらず、これらの自動車等は原告が事業用に使用していたものである。
甲一一の10のI名義の自動車は無償で同人から譲り受けたものであるが、名義変更をしないまま原告が事業用に使用し、税金を支払っていたことから、もともと減価償却の対象外である。
このように、公租公課を支払っている自動車等はいずれも原告が事業用に使用していたものでその経費性については何ら問題はない。
③水道光熱費 二九万五八五五円
(イ) 水道費 二万九四五〇円
(ロ) 電気代 二一万〇七〇五円
右金額のうち、一四万〇四六二円は、工場の動力料金、電灯料金の合計であり、残額七万〇二四三円は、居住部分の電灯料金一四万〇四八七円のうち事業用に使用した部分である五〇パーセントに当たる金額である。
(ハ) ガス代 五万五七〇〇円
原告が、生活用も含めて使用した全ガス料金一一万一四〇〇円のうち、事業用に使用した部分である五〇パーセントに当たる金額である。
(後記被告の主張(三)(3)に対して)
原告は、現在、作業場の中に小さな事務所を有しているが、当時自宅を事務所兼用として職人との打ち合わせや接待に使用したり、さらには請求書作成等のために使用していた。そこで、電気・ガスについてその使用部分を五〇パーセントと算定したものである。
④ 旅費交通費 二九万四〇一〇円
(後記被告の主張(三)(4)に対して)
原告は、ホテル・マンション等の造作工事を行っているところ、その建築現場は大宮、浦和、川越、本庄、越後湯沢、水上、草津などほとんどが遠方でその現場も掛け持ちで転々としている。このような原告の事業実態からして、原告及び職人ちが日常的に高速道路を使用することは何ら不自然ではない。高速道路の利用頻度、方面、金額などからしてその支出が当該年度の事業に関するものであることは疑う余地がない。
⑤ 通信費(電話代) 四万九〇三九円
⑥ 接待交際費 六一九万八七八九円
(後記被告の主張(三)(5)に対して)
原告が提出している領収書は、職人との打ち合わせ、仕事の打ち上げ、納涼祭、忘年会、新年会等の際の飲食代並びに下職等への差入れ品の購入代金に関するものであり、原告の事業実態からしてその経費性は明らかであり、かつ、支払先の領収書等により支払時期及び支出先も明確にされている。したがって、その支出が当該年度の事業に関するものであることは疑う余地がない。
(後記被告の主張(三)(5)②に対して)
原告方のトイレは外部の作業場に隣接した場所に設置されており、原告の従業員や下職の職人が頻繁に使用しているのであり、その経費性が認められても何ら不自然ではない。
(後記被告の主張(三)(5)④に対して)
スーパー等の小売店から食料品を購入した際、領収証に「品代」と記載することは普通である。これらが従業員や職人に対し提供する食料品の購入であることは、商店名、利用頻度、分量、金額からして明らかである。
(後記被告の主張(三)(5)⑤に対して)
建築現場で、同じ店で昼食と夕食を食べたり、新年会等を注文先の会社と下職とで同じ日に同じ店を使って行ったり、食料品について不足の際に同じ日に買い足したりしたもので、何ら不自由はない。
⑦ 損害保険料 一〇五万〇七七〇円
(イ) 職人の傷害保険 六七万三三三〇円
(ロ) 事業用自動車の自動車保険 二四万一一四〇円
(ハ) 作業場、機械設備の火災保険 一三万六三〇〇円
⑧ 減価償却費 一六八万九〇八九円
(イ) 事業用機械、車両の減価償部費 一五九万九〇八九円
(ロ) 工場建物の減価償却費 九万〇〇〇〇円
明細は、別紙六の減価償却費計算書のとおりである。ただし、万能機の取得年月は、昭和六三年一二月である。
(後記被告の主張(三)(6)に対して)
万能機については、昭和六三年一二月ころ新井機工から購入したものである。作業場は、昭和六〇年ごろ原告が自分で建築したものであり、未登記である。広さは約三五坪で、当時の工事代を坪一〇万円と評価し、取得価額を三五〇万円と算定した。右作業場には、機械・設備が当初から設置されていた。
⑨ 修繕費 四〇万〇六六六円
(後記被告の主張(三)(7)に対して)
原告が有している車両は全て貨物自動車であり、乗用車タイプは一台もない。なお、自動車免許を有しないH名義の車両も原告が事業用に使用している。したがって、車両の修繕費はいずれも原告の事業用にかかるものである。
⑩ 消耗品費 三八万一二三二円
(イ) 事業用の事務用品 一八万七三四六円
(ロ) 金物代金 一四三万二四四二円
(ハ) 事業用自動車のガソリン代 三八万四五九四円
(ニ) 事業用消耗工具の購入費 一八四万六八五〇円
(後記被告の主張(三)(8)①に対して)
「本代」、「雑誌代」等については、作業場において従業員や職人が読んでいるものであるから、必要経費とみなされる。
(後記被告の主張(三)(8)②に対して)
原告が有している車両は全て事業用自動車であり、大工道具等の運搬に使用していることから、ガソリン代についてはいずれも事業用車両にかかるものである。
(後記被告の主張(三)(8)③に対して)
甲二三の37の宛名である「J」は、原告の従弟にあたるJであるところ、当時、同人は休日などに原告の手伝いをしており、建材業者から建築資材等を買ってきてもらっていた。
⑪ 諸会費 七万二五二五円
⑫ 雑費 六万〇六九二円
(後記被告の主張(三)(9)に対して)
新聞の購読料については、作業場において従業員や職員が読んでいるものであるから、必要経費とみなされる。
(3) 特別経費 六三四七万七九六〇円
① 給料、賃金 二五二万六〇〇〇円
(後記被告の主張(三)(10)①に対して)
原告が給料、賃金を支払っている相手のほとんどはアルバイトであるところ、原告はその全ての人に傷害保険をかけている。したがって、当時の傷害保険の加入者名から、原告がこれらの人に給料、賃金を支払っていたことは明らかである。このことは、原告の事業実態からしても疑う余地がない。
また、原告は、実態を把握するため原始記録の保存に努力しているところ、できるだけ領収証には本人に署名、押印してもらうようにしているが、アルバイトや職人に「L」姓が多いこと、また、印鑑を所持していないこともあったため、原告の方で「L」姓の印鑑を用意しておき、本人に署名だけしてもらってその印鑑を押したこともあった。しかし、全て本人の了解を得ており、原告が偽造したものはない。
原告とKとは生計を一にしていない。原告とKは、住所地は同じであるが同一敷地の別棟に居住している。
② 外注費 六〇九五万一九六〇円
(イ) 大工手間代金 五〇七二万一五〇〇円
(ロ) その他の建具、電気、塗装、板金、瓦屋などへの下職代金一〇二三万〇四六〇円
(後記被告の主張(三)(10)②に対して)
原告は、外注先の職人に対し全て傷害保険をかけている。したがって、当時の傷害保険の加入者からして原告がこれらの職人に外注費を支払っていたことは明白である。
収入金額との対応関係については、支出が当該年度の事業に関するものであることは領収証などにより全てが時期を明示して立証されており、支払先も明確であることなどから原告の係争各年の事業収入に総体的に対応するものであることは容易に推認しうるから、これで十分である。
「L」姓の領収書に押印されている印影については、前記①と同じである。Hについては、Kと同様、原告と生計を一にしていない。
(4) 事業所得金額 六一六万九〇八一円
(二) 平成二年分について
(1) 総収入金額 一億〇五六一万四一七五円
① プラザ建設株式会社 五八〇一万三〇〇〇円
② 白岩建設株式会社 三四三四万七八七五円
③ 株式会社武本工務店 一一五〇万〇〇〇〇円
④ 株式会社岡部養豚 五六万三三〇〇円
⑤ M 八四万〇〇〇〇円
⑥ 睦建設株式会社 三五万〇〇〇〇円
(2) 一般経費 二四三八万一八四四円
① 仕入れ 七二四万〇四九〇円
(イ) 材木代 四三七万二九一六円
(ロ) 建材代 二八六万七五七四円
② 公租公課 五万九五〇〇円
(イ) 事業用自動車の自動車税 二万七五〇〇円
(ロ) 収入印紙代 三万二〇〇〇円
③ 水道光熱費 三三万五六〇七円
(イ) 水道費 五万七一一〇円
(ロ) 電気代 二一万八七七七円
右金額のうち、一四万四六三八円は、工場の動力料金、電灯料金の合計であり、残額七万四一三九円は、居住部分の電灯料金一四万八二七九円のうち事業用に使用した部分である五〇パーセントに当たる金額である。
(イ) ガス代 五万九七二〇円
原告が、生活用も含めて使用した全ガス料金一一万九四四〇円のうち事業用に使用した部分である五〇パーセントに当たる金額である。
④ 旅費交通費 二七万二二七〇円
⑤ 通信費 六万九四五二円
(イ) 電話代 五万二八八〇円
(ロ) 切手代等 一万六五七二円
⑥接待交際費(福利厚生費含む) 五七一万二四四七円
⑦損害保険料 一四八万六一〇〇円
(イ) 職人の傷害保険 九四万〇五〇〇円
(ロ) 事業用自動車の自動車保険 三九万三三〇〇円
(ハ) 作業場、機械設備の火災保険 一五万二三〇〇円
⑧ 減価償却費 二五一万五三二〇円
(イ) 事業用機械、車両の減価償却費 二四二万〇四四五円
(ロ) 工場建物の減価償却費 九万四八七五円
明細は、別紙七の減価償却費計算書のとおりである。
⑨ 修繕費 一一八万六二九〇円
⑩ 消耗品費 五一九万四二六八円
(イ) 事業用の事務用品 七万七二二〇円
(ロ) 金物代金 七二万四五二三円
(ハ) 事業用自動車のガソリン代 五八万三一六八円
(ニ) 事業用消耗工具の購入費 三八〇万九三五七円
⑪ 諸会費 一三万〇〇〇〇円
⑫ 雑費 一八万〇一〇〇円
(3) 特別経費 七四九九万三二五〇円
① 給料、賃金 二一六万二五〇〇円
② 外注費 七二七五万〇七五〇円
(イ) 大工手間代金 四三一〇万二一〇〇円
(ロ) 白岩建設の従業員に対する支払分 一九二八万八一五〇円
(ハ) その他の建具、電気、塗装、板金、瓦屋などへの下職代金 一〇三六万〇五〇〇円
③ 地代 八万〇〇〇〇円
(4) 事業所得金額 六二三万九〇八一円
(被告の主張)
原告が実額反証により、被告のした本件所得税更正処分の適法性を覆すためには、①その主張する収入及び経費の各金額が存在し、更に経費については事業との関連性が認められること、②右収入金額が全ての取引先から発生した全ての収入金額であること、③右経費が右収入と対応するものであり、しかも、直接費用については個別的な対応の事実、間接費用については期間対応の事実があることの三点につき、原告において、その主張する実額と真実の所得金額とが合致することに合理的疑いを容れない程度に証明しなければならず、右証明のない限り、原告主張の実額計算によることはできず、被告計算の推計計算の方法による所得金額を認定せざるを得ない。
(1) 原告の実額反証の立証方法自体について
事業所得の金額を実額で算出するためには、よほどの単純・小規模な事業でもない限り、事業に関して生ずる収入及び支出の一切を細大漏らさず記録した会計帳簿の存在が必要不可欠である。
原告が事業所得の金額についての実額反証に供する資料として提出した証拠は、①原告の取引先が作成した工事代金支払い明細、②普通預金明細表、③請求書、④領収書及び振込金受領書のみであり、右原始記録をもって、収入金額の全額を把握しうるかどうか、収益との対応関係を認めるに足りる必要経費か否かなどの事項を検証するために必要な原告の事業所得にかかる会計帳簿(総勘定元帳、売上帳、仕入帳、経費帳、出面帳及び現金出納帳等)は、一切証拠として提出されていない。
このように原始記録のみを提出しても、現金取引等の収入の計上漏れがないことは明らかにならず、また、収益との対応関係が認められる必要経費であるかどうかについての十分な検証を行うことも困難なのであって、仮に、このような原始記録に記載されたとおりの取引が立証されたとしても、なお、収入金額及び必要経費の実額を合理的な疑いを容れない程度に立証したものとは言えず、原告の実額反証は、立証方法自体において失当である。
現に、以下のとおり、書証として提出されていない資料がある。
(1) 原告は、審査請求において証拠として提出した「所得の計算と題する書面」を書証として提出していない。
(2) 原告は、三枚の普通預金明細票の写しを書証として提出するところ、原告が審査請求において証拠として提出した普通預金明細票の写しは五枚であるから、残る二枚の普通預金明細票の写しが提出されていないことは明らかである。
(3) 原告が、前記(原告の主張)(一)(1)④において主張するFからの収入に関する書証の提出がない。
(二) 収入金額について
原告は、その売上にかかる現場所在地及び現場名、工事内容等を明らかにしていない。また、原告の売上金額のうち、群馬銀行敷島支店の普通預金口座に入金されているもの以外は、その入金額が不明である。つまり、原告は、そのほとんどの売上を現金により受領していると認められるところ、現金を一元的に管理している帳簿等が提出されていない以上、原告の主張する収入金額が、全ての取引先からの全ての取引についての補足漏れのない総収入金額であることを立証しているとは言えない。
現に、原告は、本人尋問において、平成二年に大久保産業株式会社から五〇万円の収入を得たことを認めるに至っており、これは明らかな計上漏れであって、原告の実額反証は失当である。また、このように計上漏れがあることにより、その余の部分の実額主張についても正確性に疑問を差し挟まざるを得ない。
また、原告は出面帳を書証として提出せず、原告本人尋問においてその理由を説明するが、その説明は不自然で、他の証拠に照らしても信用できない。原告は、職人等を管理するための出面帳を作成していたことが推認されるところ、右出面帳には通常全ての現場名が記載されていることから、これを書証として提出することによって原告が主張する以外の売上を把握されるため、原告が敢えて提出しなかったことが推認されるというべきであり、右事実からしても、原告の収入金額には計上漏れがあることが窺われる。
さらに、原告は、売上に関する領収証の控えを書証として提出していないところ、原告本人尋問における紛失した旨の供述は不自然であって信用できず、領収証の控えを書証として提出することによって原告が主張していない他の売上を把握されることとなるため、これを提出しなかったものと考えざるを得ない。
以上からすれば、原告の実額反証は、合理的な疑いを容れない程度にまで立証し得ているとは到底言えない。
(三) 必要経費について
(1) 仕入金額
原告は、材木・新建材等を仕入れた旨主張するが、仕入の内容を明らかにしていない上、売上にかかる現場所在地、現場名や工事内容等を明らかにしていないから、仕入金額としての経費性及び収入金額との対応関係が不明である。
材料の仕入れについては、売上原価を構成するものであるから、その年分の売上に対応する材料の仕入がその年分の必要経費となる。つまり、材料の仕入れをしたとしても、その材料を使用した工事が完成しなければ仕掛工事として、未使用の材料があれば棚卸しとして、翌年以降の必要経費となるものであるところ、原告は、仕入れがその年分のどの収入金額に対応するかを明らかにしていない。
(2) 公租公課
平成元年分の租税公課については、別紙六の減価償却費計算書にフォークリフト及びサニーバンの二台が事業用の車両である旨の記載があるにもかかわらず、必要経費であると主張する公租公課の領収書は、甲一一の5、6、8のN名義の自動車税及び軽自動車税の領収書が三枚あるほかに、甲一一の2、7、9の原告の父のH名義の自動車税と軽自動車税の領収書が三枚、更に、甲一一の10のI名義の自動車税の領収書が一枚あり、右減価償却費計算書に記載された車両台数と領収書の数が相違するので、その経費性自体に疑問がある。
また、他人名義の車両が原告の事業の用に使用されていたとするが、どのように使用されていたのか立証がない。
なお、甲一一の2は、昭和六三年分にかかる自動車税の領収書であり、これをもって平成元年分の必要経費であるとの原告の主張立証は、その前提において失当である。
(3) 水道光熱費
原告は、電気料金、ガス料金のうち居住用にかかる部分の割合を五〇パーセントとしているが、右割合の算定根拠が不明である。
通常、自宅は生活の根拠であるので、その他に使用されることは想定されず、また、原告は、泊まり込みの出張や遠隔地の現場が多く自宅を不在にすることが多いことから、電気料金、ガス料金のうち五〇パーセントを職人との打ち合わせや接待に使っていたとは到底考えられない。
(4) 旅費交通費
原告は、その売上にかかる工事現場名及び所在地を明らかにしていないから、日本道路公団に支払った高速道路料金(甲一三の1ないし352、三六の一ないし429)が、真実、事業に関連したものかが不明である。
また、原告が平成元年分の旅費交通費を立証するため提出している甲一三の336は、昭和六三年分の領収書であり、平成二年分の旅費交通費を立証するため提出している甲三六の64ないし66、359、367、378、386は平成元年分の領収書である。
原告は、原告の事業にかかる工事現場について明らかにしておらず、工事現場、作業員名、作業内容等を記載したいわゆる出面帳等により工事現場を確認しなければ、右高速道路通行料金が事業に関するものであるとの立証をしたことにはならない。
(5) 接待交際費
納税者が支出した金員のうち、これを接待交際費として必要経費に算入することができるのは、①その支出の相手方が事業に関連のある者であり、②その相手方の接待や供応、もしくはその相手方への贈答等の行為のために支出したもので、③その支出の目的が接待等の行為により事業に関連のある者との間の親睦の度を密にして、取引関係の円滑な促進を図ることを意図していることという三要件を満たしている場合である。そして、③の支出の目的については、本来、納税者の主観的なものであるため、これを認定するためには、支出の相手方、支出の動機、支出金額、行為の態様、接待等による効果等具体的事情により総合的に判断すべきものと解されている。
しかし、原告は、その支出の相手方及びその支出の目的を判断するために必要な具体的事情を全く明らかにせず、また、領収証の提出のみで接待、贈答等の行為の態様を明らかにしていない。
① 支出年月日が不明なもの(甲一六の71、一八の121及び甲四一の78)や支出年分が係争年分と異なるもの(甲一五の16、7一八の125、131)がある。
② 甲一八の124、152等は、有限会社渋川衛生社に支払った汲取料であるから、このような支出は、家事関連費または家事費であると認められ、接待交際費に家事関連費または家事費が混在している疑いがある。
③ 甲三九の101、102は・原告及びBが腕時計を購入したものであり、これらの支出が家事費であることは明らかである。
④ スーパー等からの領収証に記載の支払内容は、「品代」としか記載されておらず、その必要経費性自体が不明である。
⑤ 同一日に、同一の店舗で、二度三度と飲食を繰り返しているものが多数ある。
⑥ 原告は、準備書面において原告の平成二年分の接待交際費には、従業員Oの家族のために支払った積立家族傷害保険の保険料が含まれている旨主張する一方で、証拠説明書において、甲八三号証中のOの領収書は、外注先の同人に支払った大工手間代である旨記載しており、主張ないし説明が矛盾している。仮に、Oを外注先とするのであれば、原告が、外注先の家族のための積立家族傷害保険の保険料を支払う理由がなく、このような支払いが福利厚生費に該当することはあり得ない。
⑦ 甲三九の82、83の水上温泉おくとねグランドホテルの領収証は、その支出の相手方及びその支出の目的を判断するために必要な具体的事情が一切明らかでなく、事業との関連性を有しているか疑わしい。
⑧ 甲三九の91は、平成二年九月二三日に双永寺に支払った二万円の領収証であるが、同日は春分の日であり、お寺に支払った右費用の領収証のみでは、その支払が事業と関連性を有しているということはできない。
⑨ 甲四一の17は、平成二年三月一九日に支払先「ながおか」から三月人形を三万三〇〇〇円で購入した旨の領収証であるが、右領収証のみでは、その支払が事業との関連性を有しているということはできない。
(6) 原価償部費
原告は、減価償却資産として万能機(機械)及び作業場(建物)の存在を主張するが、その前提となる当該各資産の取得に関する事項の立証がない。作業場については、いつ、いくらで建築されたものであるかの立証がない。
(7) 修繕費
①甲二一の2、5、四六の9の領収証にかかる車両は、原告が減価償却費計算書に記載する車両とは異なる車両の修繕費である。
他人名義の車両がどのように原告の事業のように使用されていたかについては立証がない。
② 原告が事業用の車両のほかに家事用の車両も有していることは明らかであるところ、甲二一の3、7、四六の3、4、7、10、12、13、15、16、18の領収証にかかる修繕費が、原告の事業用とそれ以外のいずれの車両にかかる修繕費であるかが不明である。①甲四六の2は、車両代金の分割払いにかかる領収証であるが、当該支払金は、減価償却資産の取得価額を構成するものであり、修繕費には当たらない。
(8) 消耗品費
①「本代」、「雑誌代」あるいは「品代」等と支払内容が記載された領収証が多数含まれているが、これらが必要経費に当たるか否か不明である。
従業員や職員が読んだとする点については立証がない。
②原告は、甲二四の一ないし83、四九の一ないし85の領収証は、事業用の自動車のガソリン代であるとするが、原告が、事業用の車両のほかに、家事用の車両も有していることは明らかであるところ、当該支払がいかなる車両にかかるガソリン代であるかが不明である。
また、事業用としている車両でも、家事用として使用することは通常行われていることであるから、ガソリン代が事業のみに使用していたものであることは不明である。
③甲二三の37は、「J」あての領収証であり、原告の事業にかかる、必要経費ではない。
(9) 雑費
「上毛新聞」、「スポーツニッポン」及び「サンケイスポーツ」の購読料が多数含まれているが、これらが必要経費に当たるか否かが不明である。
新聞は、一般にどの家庭でも読まれているものであり、特に従業員用として、家庭用とは別に購入しているものでない限り、家事費と考えられる。
(10) 特別経費
① 給料、賃金
(イ) 原告は、証拠として領収証を提出するのみで、給料、賃金の支払金額の基礎となる作業内容及び工事現場等を明らかにしておらず、また、賃金台帳等の提出がないから、そもそも、その経費性を判断することができないばかりか、その支出の存在自体に疑義がある。
また、甲一九及び四三の中には、P、Q、R、S及びTに対してかけていたはずの傷害保険の領収証は存在しないから、原告の主張は失当である。
(ロ) 平成元年分の給料、賃金の証拠として提出された甲二八の2は、昭和六三年分のものである。
(ハ) 原告が支払った給料、賃金のうち、「L」姓の者にかかる領収書に押印されている印影のほとんどが同一であり、不自然である。
(ニ) 平成二年において、原告は、Kに給料、賃金を支払っているが、同人は、原告の母で住所地を同じくしており、しかも、原告方の水道及びガス料金の支払名義人がKの配偶者のHとなっていることから、原告、K及びHは生計を一にしているものと推察される。しかし、原告は、Kが原告と生計を一にしているか否かを明らかにしていない。
(ホ) また、給料、賃金及び外注費については、売上原価を構成するものであるから、支出の事実だけでなく、外注費等がその年分のどの売上に対応するかを作業内容及び工事現場等に則してことを明らかにして立証しなければならないところ、原告はこれを一切明らかにしないため、その経費性が不明である。
② 外注費
(イ) 原告は、証拠として領収証を提出するのみで、外注費の支払金額の基礎となった作業内容及び工事現場等を明らかにしていないから、領収証のみではその経費性を判断することはできず、また、収入金額との対応関係も不明である。
(ロ) また、原告が支払った外注費のうち、「L」姓の者から受領した領収証に押印されている受領者の印影のほとんどは同一であり、不自然である。
(ハ) 原告は、平成二年において、Hに外注費を支払っているが、同人は、原告の父であり、また、原告とHは生計を一にしているものと推察される。しかし、原告は、Hが原告と生計を一にしているか否かを明らかにしていない。
(ニ) 同一日付の領収証については、その支払の事実を疑わざるを得ない。
4 昭和六三年分についての原告の推計課税の主張
(原告の主張)
原告は、平成四年六月ころ、昭和六三年分の領収書類を紛失してしまったので実額主張ができず、推計課税によらざるを得ないが、平成元年分及び平成二年分の原告の所得率の平均値(本人率)を昭和六三年分の売上金額に乗じることによりその事業所得を推計することが合理的である。
(一)平均特前所得率
①平成元年及び平成二年の合計所得金額は、一二四二万八二四九円であり、②平成元年及び平成二年の合計売上金額は、一億九一九七万七七一五円であり、①を②で除すと、平均特前所得率は、六・四七パーセントとなる。
(二) 昭和六三年度の総収入金額 六六一八万二五一一円
(1) プラザ建設株式会社 五六〇〇万二〇〇〇円
(2) 株式会社下村工業 三四〇万〇七一一円
(3) E 四五〇万〇〇〇〇円
(4) 丸善建設株式会社 五〇万〇〇〇〇円
(5) I 八万四〇〇〇円
(6) 阿部建設株式会社 一六九万五八〇〇円
(三) 事業所得の金額 四二八万二〇〇八円
(二)の総収入金額に、(一)の平均特前所得率六・四七パーセントを乗じた右金額が、事業専従者控除額控除前の所得金額となるが、原告には所得税法で定める専従者がいないことから右金額が原告の昭和六三年分の事業所得の金額となる。
(被告の主張)
実額反証は、やむを得ずなされた被告課税庁による推計課税に対し、当該納税義務者が、推計により算定された所得金額が帳簿書類等の直接資料に基づく実額の所得金額に比して過大であるとして、その推計に基づく被告課税庁の処分の違法性を主張することであって、原告本人の所得率の平均値によりその事業所得を推計するなどという主張は、被告の推計方法に対する再抗弁としては、主張自体失当である。
5 本件消費税決定処分の根拠について
(被告の主張)
(一) 原告は、本件課税期間につき、消費税の納税義務を負う者であるところ、被告が本訴において主張する原告の右課税期間の消費税にかかる納付すべき税額の算出経緯は、以下のとおりである。
(1) 課税標準額 一億〇一一七万五〇〇〇円
右課税標準額は、本件課税期間における課税資産の譲渡等の対価の額であり、原告の平成二年分の総収入金額一億〇四二一万〇八七五円に、一〇三分の一〇〇を乗じた額である(消費税法二八条一項。ただし、国税通則法一一八条一項により、一〇〇〇円未満の端数は切り捨て)。
(2) 課税標準額に対する消費税額 三〇三万五二五〇円
右金額は、右課税標準額一億〇一一七万五〇〇〇円に消費税率一〇〇分の三を乗じて算出したものである(消費税法二九条)。
(3) 控除対象仕入税額 九万七七八一円
後記6(被告の主張)のように、本件においては、A係官らが確認することができた平成二年分の接待交際費の一部の領収書の消費税額である九万七七八一円のみを保存があったとして、右金額につき控除対象仕入税額として認めた。
(4) 納付すべき税額 二九三万七四〇〇円
右税額は、(2)の課税標準額に対する消費税額から(3)の控除対象仕入税額を差し引いた金額である(国税通則法一一九条一項により、一〇〇円未満の端数は切り捨て)。
(一) 本件消費税決定処分の適法性
原告の本件課税期間の消費税にかかる納付すべき税額は、前記(一)(4)のとおり、二九三万七四〇〇円であるところ、右金額は、本件消費税決定処分における納付すべき税額二八六万四六〇〇円(ただし、裁決により一部取り消された後のもの)を上回るものであるから、本件消費税決定処分は適法である。
(三) 本件無申告加算税賦課決定処分の適法性について被告は、原告が本件消費税決定処分により新たに納付すべきこととなった税額二八六万円(国税通則法一一八条三項により、一万円未満の端数は切り捨て)に、国税通則法六六条一項に基づき、一〇〇分の一五を乗じて計算した金額四二万九〇〇〇円を賦課決定したのであるから、本件無申告加算税賦課決定処分(ただし、裁決により一部取消後のもの)は適法である。
(原告の主張)
被告の主張は争う。
原告の本件課税期間における消費税にかかる納付すべき税額は二六万八四〇〇円である。その算出根拠は以下のとおりである。
(一) 課税標準額 一億〇三〇九万一〇〇〇円
(内訳)① 売上高分 一億〇二五三万八〇三四円
② 車両下取収入分 五五万三三九九円
(二) 課税標準額に対する消費税額 三〇九万二七三〇円
(三) 控除対象仕入税額 二八二万四二三五円
(内訳)① 諸経費分 二七〇万三五八三円
② 資産購入分 一二万〇六五二円
(四) 納付すべき税額 二六万八四〇〇円
なお、控除税額等の詳細については別紙八消費税試算表のとおりである。
6 被告の調査当時、原告が、消費税の課税期間の課税仕入れ等の税額の控除にかかる帳簿又は請求書等を保存しなかったと言えるか。
(被告の主張)
(一) 消費税法(平成六年法律一〇九号改正前のもの。以下「消費税法」という。)三〇条七項の趣旨
消費税法三〇条七項が、当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除にかかる帳簿又は請求書等(以下「帳簿又は請求書等」という。)の保存を仕入税額控除の要件とした趣旨は、税務職員が、税務調査に際して、納税者から仕入税額控除にかかる帳簿又は請求書等の提示を受け、課税仕入れ等にかかる消費税額に関する申告の正確性を確認できるようにするところにある。
したがって、仕入税額控除をするためには、納税者が、税務調査に際し、税務職員に対して右帳簿又は請求書等を提示することが必要であり、納税者が右帳簿又は請求書等の提示を拒否した場合には、消費税法三〇条七項にいう「課税仕入れ等の税額の控除にかかる帳簿又は請求書等を保存しない場合」に該当し、仕入税額控除の要件を欠くことになる。
なお、仕入税額控除にかかる帳簿又は請求書等の保存は、仕入税額控除が認められるための独立の要件であるから、本件課税処分時において右保存が確認されなかった以上、右処分後に右帳簿又は請求書等の「保存」が確認されたとしても、それは本件課税処分後に生じた事実に過ぎず、右処分の適法性に何ら消長を来すものではない。
(一) 本件における消費税法三〇条七項の適用
本件においては、前記1(被告の主張)のとおり、A係官が原告に対して本件課税期間の消費税の調査について協力を要請し、原告の仕入税額控除にかかる帳簿又は請求書等の提示がなければ仕入税額控除ができない旨を再三再四にわたり教示し、かつ、その提示を求めたにもかかわらず、原告は、平成二年分の接待交際費の領収証の一部を提示したのみで、その他の帳簿又は請求書等については、再三にわたる提示要請にも応じなかったのであり、提示のあった領収証以外については、「課税仕入れ等の税額の控除にかかる帳簿又は請求書を保存しない場合」に当たるものと言わざるを得ない。
なお、原告が仕入税額控除にかかる帳簿又は請求書等として提出する領収証等には、家事分にかかるものが含まれており、そもそも課税仕入れにかかる請求書等に該当しないものが存在し、また、右領収証等には品名の記載がない等、消費税法三〇条九項一号の形式要件にさえ該当しないものが多数含まれるところ、それらについて、仕入税額控除が認められないことは明らかである。
(原告の主張)
(一) 消費税法三〇条七項の趣旨
仕入税額控除は、付加価値税としての現行消費税の基本的な構造であり、消費税法三〇条七項の解釈は租税法律主義の原則からして厳格でなければならず、その「保存」とは、文字通り、帳簿又は請求書等が、「元の状態を失わないでいること」である。これは客観的に判断できる事実である。
そして、「保存」の有無が争われた場合、納税者としては、口頭弁論終結時までにその客観的事実の存在を立証すれば足りる。
(二) 本件における消費税法三〇条七項の適用
前記(一) によれば、原告が本訴において主張立証する仕入額の控除は当然認められるべきである。
仮に、消費税法三〇条七項の趣旨が被告主張の通りであるとしても、原告は、前記1(原告の主張)のとおり、各経費の費目ごとにファイルで綴った領収書など全てをテーブルの上に置き、調査に協力しようとしていたのであるから、A係官が少しでも調査する意思を有していたならば領収書等の保存を確認できたことは明らかであって、本件消費税処分決定は違法である。
第三争点に対する判断
一 争点1について
1 争いのない事実、甲九一(以下の認定に反する部分を除く)、九三(以下の認定に反する部分を除く)、九五(以下の認定に反する部分を除く)、乙五、証人B及び同Cの各証言(以下の認定に反する部分を除く)、同Aの証言、原告の尋問(以下の認定に反する部分を除く)によれば、以下の事実が認められる。
(二) 被告は、原告の昭和六三年分から平成二年分の各確定申告書に収入金額及び必要経費の記載がなく、また、収支内訳書の添付もなかったことから、所得金額の算出過程が不明であり、消費税については、課税事業者に該当するか否か確認する必要があったことから、原告の申告内容が適正であるか否かについて調査を行う必要があると認め、平成三年七月下旬ころ、A係官に対し、原告の申告内容の調査を命じた。
(二) A係官は、平成三年八月二一日午前一〇時ころ、税務調査のため原告宅に臨場した際、原告が不在であったため、同月二九日午前一〇時ころ再度来訪する旨記載した文書を差し置いた。
なお、原告は、当時αでマンションの工事に従事しており、家に帰るのは月二、三回であったが、同月下旬ころには、Bからの電話連絡により自分のところに税務調査が入ったことを知り、C事務局長に電話で相談した。そして、同年九月下旬には、原告宅で、原告、B及びC事務局長が対策を話し合った。
(三) 平成三年八月二七日、BからA係官に対し、原告はαに泊まり込みで出かけており、同月二九日は都合が悪い旨の電話があった。そこで、A係官は、原告宅を訪問するのは昭和六三年分ないし平成二年分の申告内容の確認のためであること、訪問した際に右各年分の帳簿書類を用意しておくこと及び同年九月一一日に訪問する旨Bに伝えて、その了承を得た。
(四) 平成三年九月六日、BはA係官に電話し、原告は九月中は仕事の関係で都合が悪く、来月、都合のよい日を原告の方から連絡する旨伝えた。その際、A係官は、Bに、同年九月九日までに原告の都合のよい日を連絡して欲しい旨伝えて、その了承を得た。
(五) 平成三年九月一〇日、A係官が、同月九日までに原告から連絡がないので原告宅に電話したところ、原告は不在で、応対したBが、原告は調査については来月でよいと言っているとの話をした。その際、A係官は、Bに対し、同月一七日までに原告からA係官に連絡をするように伝えた。
(六) 平成三年九月一八日、A係官が、同月一七日までに原告から連絡がないので原告宅に電話したところ、原告は不在で、Bが応対したので、Bに対し、調査の日程の件について原告に伝えたかどうかを確認したところ、Bは、原告は何回言われても来月でないと都合がつかないと言っている旨話した。そこで、A係官は、同年九月二四日までに、調査の日程につき具体的にいつが都合がよいか連絡して欲しい、できれば一〇月の第一週に調査の日程を入れたい旨話し、その了承を得た。
(七) 平成三年九月二四日、BからA係官あてに電話があったが、A係官が不在のため、Bは応対した係官に対し、同年一〇月三一日午後二時ころ調査に来てもらいたい旨を伝えた。
(八) 平成三年九月二六日、A係官が原告宅に電話したところ原告は不在であり、応対したBに対し、一〇月の第一週に調査の日程を入れてもらえるとのことであったのだから、一〇月三一日でなく、一〇月の第一週または第二週に調査の都合がつかないか、再度原告と連絡を取って、九月三〇日までに返事をもらいたい旨を伝えて、その了承を得た。なお、この際、A係官は、Bに対し、卑怯者などとは言っておらず、他の係官も含めて他の機会にそのような発言をしたこともない。
(九) 平成三年一〇月三日、同年九月三〇日までに原告からA係官に対し連絡がなかったので、A係官が原告宅に電話したところ、原告は不在であり、応対したBが、一〇月一六日午後なら都合がよい旨話したので、同日午後一時三〇分ころ原告宅を訪問する旨伝え、もし都合が悪い場合には原告自身からA係官に連絡をするようにBに依頼してその了承を得たほか、これ以上調査に協力してもらえないようなら、税務署独自の調査を進める場合もあることを伝えた。
(一〇) 平成三年一〇月一五日、BからA係官あてに電話があったが、A係官が不在のため、Bは応対した係官に対し、明日の調査の時刻を午後一時三〇分から午後二時に変更するよう申し入れた。
(一一) 平成三年一〇月一六日午後二時ころ、A係官が原告の所得税及び消費税の調査のため、原告宅に臨場したところ、原告宅内には、原告、B、C事務局長ほか六名が待機していた。
A係官が、身分証明書及び質問検査章を原告に提示したところ、原告はBに身分証明書を書き写させ、「俺は何でもできるんだ。おめえんちに行かなくちゃ。」などと言った。また、原告は、調査日程を決めるに当たっての電話でのやりとりの中で卑怯者呼ばわりしたことについて謝れなどと主張したが、A係官は謝罪しなかった。
A係官は、調査は確定申告の内容を確認するもので、昭和六三年分ないし平成二年分までの三年間の所得税の調査であり、消費税について課税事業者に該当する場合には、併せて消費税の調査も行う旨を原告に告げ、所得金額は、収入金額から必要経費を控除して算定されるため、帳簿等を全部提出し、調査に協力をするように求めた。
その際、原告は、正しく申告している者は一人もいない旨主張し、C事務局長は、税務署の方から資料を見せないと帳簿等は見せられない旨主張し、調査の具体的理由の開示を求めた。結局、帳簿等の提示はなく、一切の調査協力が得られなかった。そのため、A係官は、これ以上調査の進展は望めないと判断し、午後三時二〇分、原告宅を辞去した。
(一二) 平成三年一〇月一七日、BからA係官に対し、同月一八日午後二時に調査に来て欲しい旨の連絡があったが、同日は、既にA係官の予定が入っていた。そこで、A係官は、原告と調査の日程調整をするため原告宅に電話し、応対したBに、他に調査に都合のよい日を調整して、翌一八日午前中に原告から連絡して欲しい旨依頼し、了承を得た。
(一三) 平成三年一〇月一八日午前八時四〇分ころ、BからA係官あてに電話があり、次回調査期日は同月二五日午後二時からと決まった。また、A係官はBに対し、前回の調査の際は落ち着いて話ができるような状況ではなかったので、次回の調査の際には、昭和六三年ないし平成二年までの三年間分の帳簿等を用意して調査に協力するように原告に対する伝言を依頼し、了承を得た。
(一四) 平成三年一〇月二五日午後二時ころ、A係官は原告宅に臨場し、原告及びBに面接をした。その際、C事務局長も原告らと同席していた。
Bは、A係官が卑怯という趣旨の言葉を言った旨主張し、原告も、税務署の課長が来て謝らないと協力しない旨主張した。
A係官は、原告に帳簿等の提示の調査協力を要請したが、原告は、「ばか、ばか、ばかだな、ただで見せる奴がいるかよ。見せ賃よこせ。」、「謝らないとだめだ。」などと主張し、全く調査協力が得られなかった。また、C事務局長が話の途中で、「卑怯者呼ばわりされたことを謝らないと調査協力できないよ。」と言いながら、領収書の綴りをテーブルの上に出した。
A係官は、原告らに税務署独自の調査を進める旨伝えて午後二時一〇分ころ原告宅を辞去した。
その後、原告からA係官に電話があり、支払うべき税額を教えて欲しいとのことであったが、A係官は、原告に対し、税額を算定するには、まず総収入額から必要経費を控除して所得金額を算定しなければならないので、帳簿等を全部見せてもらえなければ正しい所得金額が確認できない旨を説明した。
(一五) 平成三年一〇月三〇日、BからA係官あてに電話があり、次回の調査期日までに納付すべき税額を知らせて欲しい旨の要望があったが、A係官は、正しい所得金額は税務署長が勝手に決めるものではないので、取引先等の調査を進めた上で、平成三年一一月八日までに調査結果が出るよう努力する旨伝えた。また、Bから、次回の調査期日を同年一一月八日午後二時としてもらいたい旨の依頼があった。
(一六) 平成三年一一月二日、A係官が原告宅に電話したところ、原告は不在であり、応対したBに対し、納付すべき税額を知らせて欲しいとの点については、まだ調査に時間がかかり八日までには間に合わない旨及び同月八日は申告の基になった帳簿等を確認させてもらえるのなら調査に行くので、原告から帳簿等を確認させてもらえるか否かについての連絡が欲しい旨を伝えて、その了承を得た。
(一七) 平成三年一一月五日、A係官が原告宅に電話したところ、原告は不在であり、応対したBに対し、原告から帳簿等の確認の件につき連絡がない旨、取引先を調査している過程で原告が消費税の課税事業者に該当することが判明したため、仕入税額控除に関する帳簿等の提示がなければ、消費税の申告において仕入税額控除ができない旨を説明し、原告から早急にA係官あてに連絡を取るよう依頼して、その了承を得た。
(一八) 平成三年一一月七日、BからA係官あてに電話があり、原告の都合を考慮して、調査予定日を一一月一八日午後二時と決定した。
(一九) 平成三年一一月一八日午後二時ころ、A係官は原告宅に臨場し、原告及びBと面接した。その際、C事務局長が同席していた。
A係官は、原告らに対し、原告から納付すべき税額を教えて欲しい旨告げられていたことから、その点については調査途中である旨を伝えた上で、現時点での調査結果に基づく昭和六三年分ないし平成二年分の所得税の所得金額、所得税の額及び平成二年分の消費税の額の概算を口頭で伝えた。
また、A係官は、原告に対して税務調査につき協力を要請し、昭和六三年分ないし平成二年分の収入金額及び必要経費についての帳簿等の提示を求め、また、消費税については、帳簿書類または請求書等の提示がなければ必要経費にかかる仕入税額控除ができなくなり、その結果、税額にかなりの変動がある旨を説明した。
その後、原告からA係官に対し、平成二年分の接待交際費の領収書綴り一冊が差し出され、ここから書き写すように告げられたが、他の帳簿等の提示はなかった。そのため、A係官は、他の帳簿等の提示要請をし、消費税の仕入税額控除については帳簿等の提示がなければ認められないことを説明した。
A係官は、差し出された領収書綴りのうち七四枚分の領収書を書き写し、午後四時四五分ころ原告宅を辞去した。
(二〇) 平成三年一一月二八日、A係官は、原告宅へ電話をかけたが、原告は不在であった。そこで、応対したBに対し、帳簿等を確認できない場合には、所得税については推計の方法により所得金額を算定し、消費税については必要経費にかかる仕入税額控除ができなくなる旨を説明した上で、早期に帳簿等が確認できるよう、同年一二月二日までに原告から調査期日を連絡するように依頼して、その了承を得た。
(二一) 平成四年一月八日、原告から連絡がなかったため、A係官が原告宅に電話したところ、原告は不在であり、応対したBに対し、帳簿等の確認ができない場合には、所得税については推計の方法により所得金額を算定し、消費税については必要経費にかかる仕入税額控除ができなくなり、課税売上の三パーセントが納付税額になる旨を説明した上、来週までに調査の日程を入れることができるように依頼した。同月一七日、BからA係官に、同月二一日午後二時なら都合がよいとの連絡があった。
(二二) 平成四年一月二一日午後二時ころ、A係官は原告宅に臨場し、原告及びBと面接したが、その際、C事務局長も同席していた。その席で、A係官は、原告らに税務調査を同月中には終了したいこと、調査を午後二時からではなくもっと早い時間帯から行えるよう協力して欲しいことを伝えたが、C事務局長は、気長に調査をするよう主張した。
A係官は、原告に対し、収入金額及び外注費についての書類の提示を求めたが応じてもらえず、差し出された平成二年分の接待交際費の領収書綴り二冊(一冊は前回の続き)について二三八枚を書き写した。
A係官は、領収書の確認に時間がかかったことから、他の帳簿書類及び領収書等を借受けて検討し、調査の進展を図りたい旨原告に話したが、C事務局長は、それらは大事なものだからだめだ、帳簿等を借りていくのは押収だ、帳簿等を借りたいのなら令状を持ってくるようになどと言った。
A係官は、原告に対し、帳簿等が借りられないのであれば、今週中か遅くとも来週中に調査日程を入れてもらいたい旨依頼したが、原告は、のんびり調査をすればよいではないか、税金を払うために協力しろというのかなどと言うのみで、協力は得られなかった。
そこで、A係官は原告に対し、次回の調査時には、書類を借りるとか、何人かで調査を行うとかして、昨年八月から始まった調査を今月中には終了させたい旨申し入れ、今週あるいは来週中に調査の日程を入れてもらえなければ、税務署独自に調査を進める旨話し、午後四時五〇分ころ原告宅を辞去した。
その後、同月二七日、BからA係官あてに連絡があり、次回の調査期日が同月三一日午後二時と決定した。
(二三) 平成四年一月三一日午後一時五五分ころ、A係官及び被告所部係官Dが原告宅に臨場し、原告及びBと面接したが、その際、C事務局長も同席していた。
A係官らは、まず、原告に対し、申告の基になった帳簿書類の全てを提示するよう要請したが、提示がなかったので、とりあえず収入の分かる帳簿書類を提示するよう要請した。これに対し、原告は、「帳簿は見せない。」、「納税者の権利が書いてあるこの本のとおりやるから、調査がいつまでかかってもよい。」、「やだよ。俺は見せない。」、「税金が安ければ払うよ。職人に三人やめられて、この間は八〇〇〇万円の伊香保の仕事が取れなかった。税務署でなかったら車を潰してやるところだ、よく手を出さないよ。」などと言うのみで、結局、原告から帳簿等が提示されることはなく、調査協力が得られなかった。
A係官は、原告に対し、税務署独自の調査を進める旨伝えた。これに対し、C事務局長は、更正処分をするというのなら、その前に更正請求を出す旨主張した。
この日、A係官は、午後二時三〇分ころ辞去した。
(二四) 平成四年二月三日、原告から、平成四年二月一日の郵便局の消印がある郵便書留により、更正の請求書が、被告宛に郵送された。
更正の請求書には、その理由として、平成二年分の所得税の確定申告書において、必要経費に該当する消耗品の二万円分につき計上漏れがあったと記載されていた。
(二五) 平成四年二月四日、A係官は、原告宅に電話したが、原告は不在であり、応対したBに対し、原告と調査結果について話したいことがある旨を伝え、原告につき同月一二日午前一〇時に前橋税務署に来られたい旨、また、その際、提示する帳簿等があれば持参するように伝えた。
(二六) 平成四年二月一九日、C事務局長からA係官に対して電話があり、原告は忙しくて行くことができない旨を伝えたが、その際、A係官は、提示する帳簿等があれば、同月二五日までにそれを持参して前橋税務署まで来るように原告に伝えて欲しい旨話した。
(二七) 平成四年二月二五日、A係官が原告宅に電話したところ原告は不在であり、応対したBに対し、更正の請求については、その内容を確認した上でないと認めることができないので、原告が、更正の請求の所得金額を算定した基となる帳簿等や収支内訳書などを持参して、同月二七日午前一〇時に前橋税務署に来るよう、もし都合が悪ければ、遅くとも同年三月二日までに来るように伝え、その了承を得た。
(二八) 被告は、三月二日までに原告が前橋税務署に来なかったことから、平成四年三月三日、同日付けで、更正の請求に対して更正をすべき理由がない旨の通知をした。
(二九) 平成四年三月四日、被告は、同日付けで、本件所得税更正処分等及び本件消費税決定処分等を行った。
3 原告、証人B、同Cは、右認定に反し、概ね原告の主張に沿う事実を供述し、証人Aは概ね右認定に沿う供述をするので、以下、右各供述の信用性につき検討する。
(一) 原告、証人B、同Cは、A係官の第一回目の原告宅臨場時から全ての臨場時において、本件訴訟で提出している普通預金通帳明細票を含む領収書等の資料を全て机の上に出してA係官に提示し、調査に協力していた旨供述するが、甲六の一ないし3、乙七によれば、原告らが用意していたとする普通預金通帳明細票の作成日は本件の調査後の平成四年七月であったと認められる。
また、原告、証人B、同Cは、平成三年一〇月二五日に二回目の臨場の際もA係官に対して原告やBが卑怯者発言に対する謝罪を求めた旨供述するが、Bはそれまでも電話でのA係官とのやりとりの中で謝罪を求める機会があったことや、三回目の臨場からA係官が領収書の書き写しを始めたことに照らして、原告らは、調査を拒否するための口実としてあえて二度にわたり卑怯者発言を持ち出したと考えるのが自然である。この点に関連して、Bは、税務署と聞くと身震いするほどでおそれ多くて電話では抗議できなかったなどと供述するが、事実を否定しているにもかかわらず、二度にわたり謝罪を求めた相手を恐れていたというのは不自然であって信用できない。
さらに、もしA係官が原告が本件訴訟で提出した全ての資料を自由に閲覧できたのだとすれば、原告から差し出されたとしても、その中からあえて、一枚一枚の金額が僅少で枚数も多い接待交際費の領収書のみの書き圭写しを始めることは不自然であって、むしろ、平成二年分の接待交際費の領収書の一部しか提示がなかったためにそれを書き写さざるを得なかったと見るのが自然である。
以上の次第で、前記認定に反する原告、証人B、同Cの各供述は信用することができず、証人Aの証言は信用することができるというべきである。
(二) なお、原告は、平成二年分の領収書綴り二冊を書き写して三一二枚になった旨のA係官について、そのようなことはあり得ない旨主張するが、そもそもファイルに綴る領収書の枚数は不変のものでなく、現に、甲三八の一ないし85、三九の1ないし122、四0の一ないし102、四一の1ないし120、四二の1ないし102、九〇によれば、平成二年の食事代を含む接待交際費の領収書については、国税不服審判所に提出された枚数と本件訴訟に提出された枚数が異なっていることが認められるから、本件調査当時に二冊で三一二枚あった可能性は十分にあり、原告の右指摘は未だA係官の供述の信用性を左右するものではない。
3 以上の事実を前提に、推計の必要性を検討する。
(一) まず、原告は、平成三年八月下旬ころ被告の調査が行われていることを知ったところ、当時αの現場に出張中であったものの、月に二、三回家に帰り、九月にはC事務局長と協議したりしているのに、再三原告本人からの連絡を催促されたにもかかわらず、一度も原告本人は連絡せず、常にBを間に介在させて、故意に二か月近くも第一回臨場の期日を延ばした。
(二) また、原告は、A係官が原告宅に臨場した際には、B及びC事務局長とともに、被告の係官がBに対して卑怯者と言ったなどの発言をして謝罪を要求し、その間資料の提示を拒否し、調査を引延ばした。
(三) さらに、原告は、A係官からの再三にわたる帳簿等の提示要求にもかかわらず、提示したのは平成二年分の接待交際費の領収書綴り二冊のみであった。そして、接待交際費の領収書は、一枚一枚の価額は比較的僅少であるが枚数が多く、他の経費よりも調査が煩蹟であることは明らかである。
(四) これらによれば、原告が被告の税務調査に対して協力する意思がなかったことは明らかであり、実額による計算は不可能であったから、推計の必要があったものと認められる。
(五) なお、A係官は、平成三年一〇月一六日に第一回目の臨場をした際、本件調査の理由について、昭和六三年分ないし平成二年分までの三年間の所得税調査であり、さらに、消費税についての課税事業者に該当する場合には、併せて消費税の調査も行う旨を原告に告げた以上に調査の具体的理由を告げていないが、調査理由の開示を行うか否かは、権限ある税務職員の合理的裁量に委ねられ、調査理由の開示をしなかったことが税務調査の違法をもたらすものではない。
二 争点2について
1 乙一ないし三、六、証人Uの証言によれば、被告の比準同業者選出の経緯等について、以下の事実が認められる。
(一) 被告の総括国税調査官であったUは、平成七年一二月、上司のV統括国税調査官から、関東国税局から被告宛の「訴訟事件に関する資料の報告について(一般通達)」に基づく報告の作成を命じられた。それは、前橋税務所管内において原告と同様に所得税の納税地を有する個人事業者のうち、本件各年分ごとに、次の(1)ないし(5)の全てに該当する者の報告を命じるものであった。
(1) それぞれの年分の暦年を通じて、大工工事業を継続して営んでいた者であること
(2) 大工工事業以外の事業を兼業していなかった者であること
(3) 所得税青色申告決算書を提出していた者であること
(4) 年間の売上(収入)金額が、次の範囲内にある者であること
昭和六三年分 三三〇四万九二五五円以上一億三二一九万七〇二二円未満
平成元年分四三一万四三二〇円以上一億七二四五万七二八〇円未満
平成二年分五二一〇万五四三七円以上二億〇八四二万一七五〇円未満
(5) 次のイ及びロのいずれにも該当しない者であること
イ 災害等により経営状態が異常であると認められる者
ロ 税務署長から更正または決定処分がされている者のうち、次の(イ)または(ロ)に該当する者
(イ) 当該処分について国税通則法または行政事件訴訟法の規定による不服申立期間または出訴期間の経過していない者
(ロ) 当該処分に対して不服申立がされ、または訴えが提起されて現在審理中である者
(二) U調査官は、右(一)の(1)の大工工事業を営んでいた者及び(3)については、業種名、住所、氏名、青色・白色区分、収入金額、所得金額等が記載された申告者名簿を確認して抽出し、右(一)の(1)の各年分を通じて継続して営んでいた者及び(2)については、所得税青色申告決算書(一般用)(以下「決算書」という。)の決算期間及び業種名の欄を確認して抽出し、(4)については、「売上(収入)金額」欄を確認して抽出し、(5)については、決算書の「特殊事構」欄及び所得税青色申告決算書及び不服申立をした者を記載した整理簿等を確認して抽出し、その結果を、「訴訟事件に関する資料の報告について(報告)」にまとめた。さらに、右報告書を、井上統括が検算して関東国税局に提出した。
(三) このうち、大工工事業という業種の分類は、日本標準産業分類に準じたもので、建設工事を直接請け負うのではなく、大工工事部分を下請けする業者のことをいい、型枠大工工事業及び木造建築工事業は除かれている。
2 以上によれば、U調査官によって抽出された業者は、原告と事業内容、事業規模等が類似している同業者と認めるに十分である。また、その抽出に当たり使用した資料は、いずれも帳簿の整っている青色申告者の決算報告書等で、その信頼性ないし正確性は高いものということができる。さらに、抽出作業は恣意の入らない機械的な方法でされており、被告の主張する類似同業者の経費率は合理的なものと認めることができる。
3(一) これに対し、原告は、原告の事業実態は、アール・シー工事という鉄筋コンクリートの内部造作工事がほとんどであり、いわゆる在来の木工事である大工工事や建物の基礎工事としてコンクリートを流し込む型枠工事は全く行っておらず、しかも、オール下請ということで材料は全て元請持ちで材料仕入の際のマージンはなく、手間賃だけであって、大工工事業だけでは、原告の所得を推計するに足りる類似性のある同業者とすることはできない旨主張する。
しかし、前記認定のとおり、被告の分類した大工工事業は、建設工事を直接請け負うのではなく、大工工事部分を下請けする業者のことをいい、型枠大工工事業及び木造建築工事業は除かれているのであるから、同種業者の特定としては十分というべきである。
(二) 原告は、被告が同業者として抽出した業者の各年分の所得率に大幅なばらつきがあり、これは各業者の事業実態の無視によるもので、平均値には何の意味もない旨主張する。
しかし、業者によって収入金額、必要経費及び経費率が異なるのは当然であるし、前記認定のとおり業種、営業規模等の類似性及び平均値算出過程の適正さに欠けるところがない以上、類似同業者としてあげられた各業者間に存する差異は、それが同業者間に通常存在する程度のものを超える異常なものでない限り、平均値算出の過程で捨象することができるものというべきであるところ、本件推計方法において類似同業者として挙げられた業者の経費率は、昭和六三年分において最低五・七〇パーセント、最大二三・八八パーセント、平成元年分において最低六・九七パーセント、最大一六・八三パーセント、平成二年分において最低四・二〇パーセント、最大一六・二六パーセントであり、その差異が同業者間に通常存する程度のものを超えると認めることはできない。
4 また、被告が抽出した同業者が原告と類似性のある同業者かどうかの判断資料が提出されていない点については、いずれにしても被告の抽出に恣意性が認められないことは前記のとおりであり、税務職員は自己が職務上知り得た秘密を守ることが法令上義務づけられているのであるから、やむを得ないところである。
5 以上によれば、被告の本件推計方法には合理性が認められる。
6 ところで、本件各係争年分における総収入金額については、少なくとも被告主張の金額があることに争いはないから、右のとおり合理性のある推計方法によれば、昭和六三年分の納付すべき税額については、前記第二の二2(被告の主張)(一)(1)①ないし④に基づき算出された課税総所得金額五四九万六〇〇〇円に、昭和六三年法律一〇九号による改正前の所得税法八九条一項所定の税率を乗じて、少なくとも同⑤記載の金額を認めることができ、平成元年分及び平成二年分の納付すべき税額は、前記第二の二2(被告の主張)(一)(2)及び(3)のとおりの計算過程で、同記載の金額を認めることができる。
したがって、本件所得税更正処分(ただし、平成二年分については裁決により一部取消後のもの)は、いずれも右金額を下回るものであるから、適法である。
7 また、本件各係争年分の過少申告加算税については、適法な本件所得税更正処分(ただし、平成二年分については裁決により一部取消後のもの)を基にして、前記第二の二2(被告の主張)(四)のとおりの計算過程で、同記載の金額を認めることができる。
したがって、本件過少申告加算税賦課処分(ただし、平成二年分については裁決により一部取消後のもの)はいずれも適法である。
三 争点3について
1 推計課税取消訴訟における実額の主張、いわゆる実額反証とは、原処分時において納税者が実額を算定するに足りる帳簿書類等の直接資料を提出せず、税務調査に協力しないため、やむを得ずなされた推計課税に対し、審査請求時または訴訟の段階になって実額によって所得を認定すべきであると主張し、推計によって算定された所得金額が実額に比して過大であるとして、その推計課税の違法性を主張することをいう。
そして、納税者が推計課税取消訴訟において所得の実額を主張し、推計課税の方法により認定された額が右実額と異なるとして推計課税の違法性を立証するためには、その主張する実額が真実の所得額に合致することを合理的疑いを容れない程度に立証する必要があると解すべきである。けだし、申告納税制度の下における納税者は、税法の定めるところに従った正しい申告をする義務を負うとともに、その申告を確認するための税務調査に対しては、所得金額の計算の基となる経済取引の実態を最も良く知っている者として、その所得金額を算定するに足りる直接資料を提示し、その申告の内容が正しいことを税務職員に説明する義務を負うものといわなければならないのであって、申告納税義務に違反して直接資料を提出せず、調査に協力しないために、やむを得ず課税庁をして推計課税を余儀なくさせた納税者が実額反証を許される結果、申告納税義務を遵守する誠実な納税者よりも利益を得るような事態を生ぜしめるべきでないことは当然であるばかりでなく、納税者の実額反証後に実施される課税庁の反面調査、証拠の収集は、確認すべき個々の経済取引がなされてから相当の年月を経過してなされるため、関係資料の保存期間の経過や取引関係者の転出、所在不明などによって限界があり、著しく困難であるのに反し、実額反証を主張する納税者は、もっともと経済取引の当事者であって、自己に有利な証拠を提出するのは容易であり、対等な立場にないからであって、かかる納税者に右のような立証責任を負担させても酷であるとは言えないからである。
2 また、所得税法上、事業所得の金額は、その年中の事業所得にかかる総収入金額から必要経費を控除した金額とされることからすれば、原告が実額反証により、被告のした本件所得税更正処分の適法性を覆すためには、①その主張する収入及び経費の各金額が存在し、更に経費については事業との関連性が認められること、②右収入金額が全ての取引先から発生した全ての収入金額であること、③右経費が右収入と対応するものであり、しかも、直接費用については個別的な対応の事実、間接費用については期間対応の事実があることの三点につき、合理的疑いを容れない程度に証明しなければならないと解される。
3 そこで本件について検討する。
(一) 本件において、原告から、平成元年度及び平成二年度に生じた収入及び支出を立証するため、領収書等の証拠が提出されているが、事業に関する全ての収入金額及びこれに対応した費用の金額を継続的に記録した会計帳簿は提出されていない。
ところで、日々継続的に記帳された会計帳簿は、収入の計上漏れの生ずるおそれが少なく、恣意的な操作をすることも困難であることから、一般には網羅性を認めることができ、かつ、会計帳簿間での関連性や領収書等の原始資料と照らし合わせることによって、その正確性を検証することができる。しかし、会計帳簿が存在せず、単に預金通帳や領収書等の原始資料のみによって計算された所得額は、領収書等を破棄または集計しないことによって、容易に恣意的な金額の操作を行うことができる点で、信用性に欠けるものと言わざるを得ない。
(一)本件においては、会計帳簿は提出されていない上、乙八、原告の尋問によれば、現に平成二年に大久保産業株式会社から、五〇万円の収入を得た事実が認められ、明らかな計上漏れがあったものと認められる。
ところで、右の計上漏れの事実については、平成二年分の原告の所得に五〇万円を加えれば足りる問題ではなく、平成元年分及び平成二年分の所得額について、他にも恣意的にまたは無意識に収入等の計上漏れがあることを推認させる事実であって、会計帳簿が提出されていないこととも合わせ考慮すれば、少なくとも前記2②の要件については、合理的な疑いを容れない程度の立証があるとは到底言えないというべきである。
(三) したがって、その余の点を判断するまでもなく、原告の実額反証は失当であり、採用することができない。
四 争点4について
原告は、平成元年分及び平成二年分の実額反証が成立することを前提として、昭和六三年分の所得額を本人率により計算して主張するが、右実額反証が失当であることは前記のとおりであるから、右主張は採用できない。
五 争点5、6について
(一) 消費税法は、申告納税制度を採用しているので、原則として納付金額は納税者のする申告によって確定し、申告がない場合又は申告にかかる税額が税務署長等が調査したところと異なる場合には、税務署長が更正、決定等の処分を行うことによって確定する。そして、申告納税制度は、大量の納税者の申告に対し、税務職員が効果的に調査を行うことによって、適正な税収を確保しようとする制度であるから、税務職員による調査は、正確性を維持しつつも、数多くの申告内容を迅速に確認するものでなければならない。
ところで、消費税は、他の税目に比べ、大量反復性を有しているため、簡単に調査しうる確実な証拠によって迅速に調査を行うことができなければ、税務署長等は広い範囲の申告内容を確認することができず、適正な税収を確保できないおそれがある。また、消費税は、消費者からの預り金的性質を有するから、納税者の益税とならぬよう、特に正確な税額確定が要求されるところ、証拠方法を確実な証拠に限定しなければ、大量、迅速な処理が要求される税務調査において、その正確性を十分担保することができない。そこで、消費税法三〇条七項は、仕入税額の証明手段を帳簿又は請求書等に限定することにより、税務署長等が簡単に調査しうる確実な証拠に基づいて仕入税額を確認できるようにし、それによって、正確かつ迅速に、広い範囲の申告内容を確認することを可能にしようとしたものである。すなわち、消費税法三〇条七項は、効率的な税務調査を実現することにより、申告納税制度を採用する消費税法のもとで適正な税収を確保しようとした規定であると考えられる。
以上の消費税法三〇条七項の趣旨に照らせば、同項にいう帳簿又は請求書等は、税務署長等が申告内容の正確性を確認するための資料として保存が要求されているものということができ、帳簿又は請求書等が税務調査に供されることを予定し、税務職員が税務調査として帳簿又は請求書等の提示を求めたときは、納税者はこれに応じることを当然の前提としているというべきである。
また、消費税法三〇条七項が、税務調査における帳簿又は請求書等の提示を予定していることは、他の条文の規定からも窺うことができる。すなわち、消費税法施行令五〇条一項(平成七年政令三四一号改正前のもの)は、消費税法三〇条七項に規定する帳簿又は請求書等を整理し、当該帳簿についてはその閉鎖の日の属する課税期間の末日の翌日から二か月を経過した日から七年間、これを納税地またはその取引にかかる事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地に保存しなければならないと規定している。そして、右にいう七年間とは、課税庁が課税権限を行使しうる最長期間である七年間(国税通則法七〇条五項参照)とまさに符合するのであり、帳簿又は請求書等が税務調査において利用されることを前提とした規定であるとして初めて理解しうる。言い換えれば、右条文は、帳簿又は請求書等が税務調査の資料として利用されることを前提にその保存期間を規定しているのであって、不服申立手続や訴訟手続で帳簿又は請求書等が利用されることは念頭においていない。また、帳簿又は請求書等を納税地等において整理して保存しなければならないとされている点も、税務調査において税務職員が帳簿等の内容を確認することを前提とした規定であると理解するのが自然である。
以上によれば、消費税法三〇条七項にいう「帳簿又は請求書等の保存」とは、単なる客観的な帳簿又は請求書等の保存と解すべきではなく、税務職員による適法な提示要求に対して、帳簿又は請求書等の保存の有無及びその記載内容を確認しうる状態におくことを含むと解するのが相当である。これを納税者の側から見ると、税務調査において帳簿又は請求書等の提示を拒否した納税者は、仕入税額控除を受けることができないこととなるが、帳簿又は請求書等を適正に保存さえしていれば、納税者が税務調査においてそれを提示することは極めて容易であり、その機会も充分に与えられるのであるから、敢えて課税処分がなされた後に帳簿又は請求書等の提出権を認めなければならない合理的理由はない。したがって、納税者が税務職員による適法な提示要求に対して、正当な理由なくして帳簿又は請求書等の提示を拒否したときは、後に不服申立手続または訴訟手続において帳簿又は請求書等を提示しても、これによって仕入税額の控除を認めることはできないというべきである。
(二) これを本件についてみると、前記認定のとおり、原告は、A係官が五回にわたり原告宅に臨場し、帳簿又は請求書等の適法な提示要求をしたのに対して、正当な理由もなく、始めの二回は、ことさら卑怯者発言などを持ち出して提示を拒否し、その余の臨場時は、平成二年分の接待交際費に関する領収証三一二枚を提示するのみでその余の提示を拒否していたのであるから、右提示にかかる領収書以外の請求書等については、税務職員による適法な提示要求に対して、帳簿又は請求書等の保存の有無及びその記載内容を確認しうる状態においていたとは言えず、消費税法三〇条七項の保存があったと認めることはできない。
(三) したがって、原告から提示のあった領収書以外の費用について仕入税額控除をしなかった被告の本件消費税決定処分は適法であり、消費税法三〇条七項による保存をしていなかった請求書等に基づく原告の実額主張は採用することができない。
(四) ところで、平成二年分の原告の総収入金額については、少なくとも被告主張の金額があることは争いがなく、控除対象仕入税額は、原告から提示のあった領収書から算出した九万七七八一円とすべきであるから、納付すべき消費税額は、前記第一の二5(被告の主張)(一)のとおりの計算過程で、同記載の金額を認めることができる。
したがって、右金額を下回る本件消費税決定処分(ただし、裁決により一部取消後のもの)は適法である。
(五) また、無申告加算税については、右のとおり適法な本件消費税決定処分(ただし、裁決により一部取消後のもの)を基とし、前記第一の二5(被告の主張)(三)のとおりの計算過程で、同記載の金額を認めることができる。したがって、本件無申告加算税賦課決定処分(ただし、裁決により一部取消後のもの)は適法である。
第四結論
よって、原告の本訴請求はいずれも棄却することとし、訴訟費用について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 村田達生 裁判官 中野智明 裁判官 山崎威)